愛おしくなる女優・土屋太鳳

凛々しさも明るさもクールさも狂気も
役に注ぐ情熱はリアル「ガラスの仮面」

日本テレビの「金曜ロードSHOW!」で「るろうに剣心」シリーズが3週連続で放映された。いずれも映画館で観たが、前・後編として公開された「京都大火編」「伝説の最期編」は、いいところで“続く”となった「大火編」の方が満足度が高く、決着の付いた「最期編」は不満が残った。
原作で盛り上がった剣心たちと敵方の“十本刀”三強との対決が、剣心(佐藤健)対瀬田宗次郎(神木隆之介)以外は端折られていたのが残念。“破戒僧”安慈の背景には触れられず、“心眼”の宇水は斎藤一に一撃で倒されて。
もちろん全部を原作通り描いていたら尺が足りないが、逆に原作以上に描き込まれて冗長に感じたシーンも。剣心が再会した師匠・比古清十郎に奥義の伝授を乞う数日間だ。比古を演じたのは福山雅治。実際に佐藤の事務所の先輩でもあり、どうせ超大物に出てもらうなら出番を多くしたい事情はわかる。しかし、やはり2人のシーンは長すぎ。物語のテンポが損なわれた。だったら、原作で敵ながら魅力的だった十本刀をもっと描いてほしかった。
と、ここまでは前置き。「るろ剣」をテレビで改めて観たのは、巻町操役の土屋太鳳が目当てだった。現役体育大生ならではのアクションもさることながら、まっすぐな凛々しさ、慕っていた四乃森蒼紫の変節への憤りと、テレビで再び観ても高まった。
朝ドラ「まれ」(NHK)でヒロインを演じて、知名度を全国的にした土屋太鳳。「まれ」では明るく快活な役だったが、もともとは「鈴木先生」(テレビ東京系)や「真夜中のパン屋さん」(NHK)などクール系のイメージ。現在出演中の「下町ロケット」(TBS系)での父親に反抗的な娘もそう。ただ、彼女はどんな役を演じても、愛おしく思える。
ヒロインの妹を演じた朝ドラ「花子とアン」(NHK)で姉の幼なじみに想いを寄せ、彼が好きなのは姉と知りながら告白して、母の胸で泣く場面などはもちろん、「下町ロケット」でふくれっ面で父親に「バッカじゃないの!」などと毒づいているのも愛おしく感じる。
取材での彼女はにこやかで「まれ」のイメージに近かった。真面目そうで「私には女優としての基礎も技術もないので、役として生きることを目標にしています。作品の環境や時代背景を調べたり、テーマを考えて、自分なりに役作りをしてきました」と話していた。
その演技へのストイックな姿勢は“リアル「ガラスの仮面」北島マヤ”を思わせる。「人狼ゲーム ビーストサイド」という「キミが出なくてもいいのに」と思うようなB級サスペンスホラーに主演したときは、包丁で人を平然とめった刺しにするなどエグいシーンも多かったが、辛い気持ちになりながら自分を苦しめて追い込んで、本能で動くようにしていたとか。
「まれ」でパティシエを演じたときには、「役作りでケーキを食べすぎて太った」とも報じられ、彼女ならそこまでやってしまうだろうなと思った。土屋太鳳の演じる役が愛おしく見えるのは、彼女自身が役に注ぎ込む情熱がそこはかとなく溢れているからかもしれない。
「まれ」の撮影に入る前の取材で、ブログはどうするのか聞いたことがある。彼女のブログは毎日長い。「何を食べた」「どこへ行った」という話でなく、日々のなかで自身の感じた想いを誠実に綴っていた。だが、朝ドラの撮影はハード。出ずっぱりのヒロインは睡眠時間もまともに取れない。そのなかでブログはどうするのだろうと。
彼女は「できたら毎日頑張りたいです」と話していて、撮影に入ったら実際に、長いブログを毎日書き続けていた。半年に渡り「まれ」の撮影裏話やエピソードを逐一盛り込んで。どこにそんな時間があったのだろう? とにかく彼女の真面目さはブログにも現れている。本当に真摯な人なのだと思う。
12月には主演映画「orange」が公開になる。10年後の自分から手紙が届くという、ファンタジックな青春純愛ストーリーとのこと。映画館で流れた予告編で制服姿の土屋太鳳を観ただけで、また愛おしいような気持ちで胸が熱くなってきた。彼女のいろいろな作品を観てきたが、この「orange」では初めて泣かされるかもしれない。

ライター・旅人 斉藤貴志