たこやきレインボーが日比谷野音で発揮した“えんたていめんと”の力

夏の終わりを切なくも楽しく歌う

 
 夏の終わりの歌といえば、「夏のクラクション」「さよなら夏の日」「secret base~君がくれたもの~」などなど、世代によっていろいろ挙がるだろう。ただ、真夏に盛り上がる歌が多いアイドルソングでは意外と少ない気がする。
 そんななか、個人的にはアイドリング!!!の「Forever Remember」が思い浮かぶ。8月末に開催された2回目の「TOKYO IDOL FESTIVAL」の野外ステージで聴いた印象が強い。去年は夏限定ユニット・志田サマー新井サマーの「あんなに好きだったサマー」もあった。
 何にせよ、こうした晩夏ソングは切ないのが常。しかし、たこやきレインボーの「ほなまたねサマー」はちょっと違う。軽やかなシンセのイントロで始まり、ラップも交えて“宿題致命的に終わんない”なんてことも歌いながら秋の気配を感じさせ、“ほんのちょっとだけ私達大人になる”とセンチメンタルなメロに。笑いながらホロッとするような、まさに“ほなまたね”感。たこ虹らしい夏の終わりの歌だ。
 この曲は9月10日に日比谷野音で行われた彼女たちのライブ「オオサカアイドルフェスティバル2017 in TOKYO」の終盤で歌われた。お祭り騒ぎの渦中で胸に染みて、「良い夏の思い出ができたな」と思えた。笑って、音楽に乗って、パフォーマンスに見入った夜に……。
 このライブ前の取材で、彼女たちは抱負として「『自分ら、こんな面白いんやで』と知ってもらいたい」と話していた。アイドルがライブへの意気込みで真っ先に出るのが「面白さ」ですか? と笑ったが、そこが関西発のたこ虹。
 そもそもこの「オオサカアイドルフェスティバル(OIF)」は、たこ虹が「自分たちがトリを飾れるフェスを」と自前で5年前から始めたもの。フェスで“トリ”というからには、その前に大阪のアイドルたちが出演する体だが、この顔ぶれがまた……。
 

笑いと実力の大阪アイドルパート

 
 日比谷野音のOIFでは、オープニングアクトとしてたこ虹が「ちちんぷいぷいぷい」など3曲を披露したあと、大阪アイドルたちのコーナーに。まずブルゾンちえみのネタのBGM「Dirty Work」に乗り、堀くるみが扮したアマゾンくるみが登場。アマゾン=尼崎ゾーン、らしい。バックには男性2人の“with B”も従え、“B”はBでも「バイトの方です」と。おもむろに歌い出したのはアリアナ・グランデの「Break Free」。お笑いモードから一転、本格派のヴォーカルを堂々と響かせ、会場の度肝を抜いた。
 続いて、ボディコンスーツのゆう子(彩木咲良)と温子(春名真依)の2人組・バブル時代。「うちら、こう見えてアラフォーなんで」と言いつつ、「“れ”で始まるバブル用語は?」に「れれれのれー」と答えたりする。歌ったのは少女時代の「Gee」。お立ち台よろしくセンターステージで扇子を振り回し、最後に「シーメー行かない?」「ザギンでシースー」などと言いながらステージをあとに。スタイルの良い2人が並ぶパフォーマンスは壮観だった。
 次は和歌山のアイドルユニット・うめみかん……のはずが、BGMが流れてもなかなか現れない。「すいませーん」と駆け込んできたのは、スーツにメガネのマネージャー佐藤さんこと根岸可蓮。メンバー2人がもめて楽屋から出てこない……と謝りつつ、メガネを取って自ら「キューティーハニー」を歌い出す。キレのあるダンスとシャープな歌でキメると、また「申し訳ございません。私ごときが」と頭を下げながらハケていった。
 そして“大物アーティスト登場”と姿を見せたのは、清井咲希が扮した尼崎あゆみ。TシャツにGパンで「AMAでーす!」と連呼し、ポーチから取り出したのは「アメでーす!」。さらに「2階せきー!」(野音にないけど)などと煽りながら、浜崎あゆみの「BLUE BIRD」を歌う。モノマネとしてなかなかのクオリティのうえ、伸びやかで芯のある歌声は心地良かった。
 という感じで出演した4組のステージに、会場では笑いが絶えず、彼女たちが目指していた「面白さ」はこのパートでおおむね達成。コント風ななかで、何気に聴かせどころと見せどころを抑えていたのがニクい。
 

ネアカな盛り上がりと躍動的グルーヴ

 
 いよいよトリとして、手島いさむ、川西幸一らによる“なにわンダーたこ虹バンド”をバックにたこやきレインボーが登場。ホーンが弾ける「サンデーディスカバリー」から始まり、高速ラップの入る「まねー!!マネー!?Money!!」、拳を突き上げる「めっちゃPUNK」など、歌とダンスとバンドのグルーヴがガッツリ噛み合った躍動感に、観ていると開放的な気持ちになり、自然と体が動く。たこ虹の盛り上がり方は徹底的にネアカだ。
 そんななかにウルフルズの「ええねん」のアコースティック・カバーや前述の「ほなまたねサマー」を持ってこられ、素直に感動してしまう。そこからまた、タオルを回す「365Go!」やペンライトを振る「ちゃんと走れ!!!!!!」、ラストの「たこ虹物語~オーバー・ザ・関ヶ原~」などでハチ切れるほどエネルギッシュにアゲた。「今年もトリをやらせていただきました」などと語って、アンコールのオーラスはポジティブさ溢れる「RAINBOW~私は私やねんから~」で、とことん明るいまま幕を閉じた。
 いわゆるアイドル的なコンサートを観たというより、面白いステージを楽しんだ感触。たこやきレインボーのライブは“えんたていめんと”だと感じる。まあ、普通のことをひらがなにしただけではあるが、女の子たちが楽曲も企画も自ら面白がりながら、お客さんを楽しませるノリにハマるのでは。親愛を込めた「アホやな」的ニュアンスも含めて。かつ、ちゃんと楽曲で魅せるところは魅せる。
 

清井咲希の明るく清楚なありがたさ

 
 そしてもうひとつ、輪をかけてたこ虹を特別なアイドルにしているのは、やはりセンターの清井咲希の存在だ。昨今のアイドルのなかでも、彼女のヴィジュアルは屈指のもの。さらに、お嬢様っぽい清楚感を持っている。実際に彼女がどんな家庭で育ってきたかは知らないが、取材で「自分が当たり前だと思っていたことをメンバーに言ったら、『何? そのお嬢様ぶり』と言われる」と話していたこともあった。保育園の頃からお茶の教室に通っていた、とか。家族とヨーロッパ旅行をしてきたとブログに書いていたことも。だが、そうした情報ナシでも、明るいお嬢様的なオーラを感じる。
 そんな彼女がたこ虹では、他のメンバーと共に全力で歌い、踊り、ときにはアホなこともする。「AMAでーす! アメでーす!」もそうだった。でもやはり、品の良さを醸し出している。
 夏の甲子園をテレビで観ていて、ふと思い出したのだが、高校生の頃、クラス委員で優等生タイプの女子がチアリーダーを買って出てくれたとき、息を呑む感じがあった。並べるのもナンだが、清井咲希が「マネー! マネー!」と踊ったりする姿にはやはり、ありがたいような眩しさがある。にぎやかで楽しくかわいいたこ虹のなかに、清井咲希の清楚な色が入ることで、グループの魅力はより多層で強くなっている。彼女がたこ虹に加入してくれたことに、それ以前にアイドルの道を選んでくれたことに、僕らは感謝を忘れてはならないだろう。
 そんな清井咲希だが、「オオサカアイドルフェスティバル」の最後の最後、「バイバーイ」と5人がステージを降りたところを追った映像で、コケてる姿が映っていた。「演出、演出」との声も出ていたが、そんなオチを付けるとは、やっぱり持ってるなと思う。
 
 

 

 

 

 

 

 
 

ライター・旅人 斉藤貴志