黒島結菜が放つ国民的ヒロイン感

 
 

「時をかける少女」での瑞々しさに
“次は朝ドラ”と感じた2016年の夏

 
 
 芸能ライターとして自分が書いた業界予測の記事を、何年か経って“結果”が出た後に読み返すと、あまりの的外れに恥じ入るときと(たまに)先見の明を自画自賛するときがある。
 4年前に某サイトで「NHK朝ドラの次の次の次のヒロインに黒島結菜が有力?」という記事を寄稿させてもらった。高畑充希の「とと姉ちゃん」が終了間際で、次が芳根京子の「べっぴんさん」、その次が有村架純の「ひよっこ」と決まっていた頃だ。
 もちろん、その段階で“次の次の次”は作品すら発表されてなくて、オーディションをやるのかも、黒島の事務所側にその気があるのかも知らなかったが、2016年の彼女には“有力”と感じさせるものが確かにあった。
 中学時代、「沖縄美少女図鑑」に載ったのがきっかけでスカウト。2014年に「アオイホノオ」で主人公に思わせぶりな態度を取る芸大生役、「ごめんね青春!」でお堅い生徒会長役(「男子が女子を性的な目で見てます!」と訴える台詞にドキリ)などドラマに出て、2015年には初主演の「あしたになれば。」や「ストロボ・エッジ」ほか映画に6本も出演。長澤まさみや能年玲奈らを継ぐ「カルピスウォーター」CMキャラクターにも抜擢された。
 そして19歳になった2016年の夏、名作リメイクの「時をかける少女」で連ドラ初主演。これがまあ何とも……。まっすぐで頑張り屋の女子高生役で、自転車をこぐシーンだけでも甘酸っぱいほどの瑞々しさ。2話ではタイムリープして事故死すると知ってしまった少女に運命を知らせることができず、別れ際に彼女の自転車の荷台から手を離せないシーンで涙を誘ったりも。とにかくかわいかったし、胸をキュンとさせた。
 などと書くと「ただお前が好きなだけじゃねえか」と言われそうで、好きだったのは否定しないけど、単に“ブレイク確実”ではなく、朝ドラのヒロインにふさわしいと感じたのだ。
 
 

フェミニンというより自然体
老若男女に愛されそうな資質

 
 
 伏線的には当時、朝ドラに脇役で出てからヒロインに選ばれるパターンが続いていた。「花子とアン」→「まれ」の土屋太鳳、「ごちそうさん」→「とと姉ちゃん」の高畑、「花子とアン」→「べっぴんさん」の芳根、「あまちゃん」→「ひよっこ」の有村。
 黒島も「マッサン」に1週間だが出演した。さらに大河ドラマ「花燃ゆ」で時代劇に初挑戦したり、演技の評価を高めた戦後70年ドラマ「一番電車が走った」に阿部寛とW主演したり、NHKに買われている印象があった。
 だが、何より大きいのは黒島自身の資質。ショートカットが似合うたたずまいは、フェミニンというより自然体。「時をかける少女」で「かわいい」とネットで声を上げたのは女性も少なくなかった。また、往年の原田知世の映画を観ていてチャンネルを合わせた大人世代も、彼女の素朴さや劇中で「何ごとにも一生懸命」と言われたままの姿に“良い娘”的な好感を持ったようだった。
 老若男女に愛されそうな黒島結菜は、国民的ヒロイン感を放っている。だからこそ朝ドラにピッタリ! そう思えてならなかった。それで、そんな原稿を書いた。結果、“次の次の次”は「わろてんか」で、ヒロインは葵わかな。予想はハズれた。というか、元から無理筋だったな。
 それでも彼女に対する評価は間違ってなかった、と言い張りたい。その後も映画「サクラダリセット」とか「プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~」とか主演級でいろいろ出たし、朝ドラにも今年1月、「スカーレット」で戸田恵梨香が演じた陶芸家に弟子入りする役で、3週間くらい出演していた。当たらずとも遠からず(強弁)。
 
 

ラブコメ時代劇「アシガール」で
お茶目なかわいらしさが存分に

 
 
 そんな中、この4月クールには思いがけず、彼女がヒロイン格で出演する連ドラが2本、プライムタイムで放送されている。
 「アシガール」(NHK/金曜22:00~)はもともと2017年に土曜夕方の時代劇枠で放送された作品。コロナ禍でご多分に漏れず、金10枠の新ドラマ「ディア・ペイシェント~絆のカルテ~」が撮影休止となって、代わりに再放送されたわけだが、「ナイス! NHK」と叫ばずにはいられない。
 足が速いことだけが取り柄の平成の女子高生が、天才的な弟の造ったタイムマシンでうっかり戦国時代へ。男子と偽って足軽隊に入り、大名の跡取りの若君にひと目惚れ。彼を守ろうと奮闘する。
 ラブコメはあまりやってなかった黒島が、「若君さま~」と一直線に追い掛けては空回り。姫になりすましたものの自分の名前を言えなかったり、初めて酒を飲んで絶叫したりするのも面白くて。前年の「ナイトヒーローNAOTO」などでちょいちょい垣間見せたお茶目なかわいらしさが、ストレートに出た「アシガール」。本放送のときに毎週楽しみだったが、3年経った再放送でも見応え十分だ。
 
 

「行列の女神」でド天然&超KYな役
マンガっぽいキャラを表情豊かに

 
 
 放送中のもう1本が「行列の女神~らーめん才遊記~」(テレビ東京系/月曜22:00~)。こちらはコロナウイルスの感染拡大前に、全話撮り終えていたらしい。この「ドラマBiz」枠は、2018年4月に江口洋介主演の「ヘッドハンター」から始まり、大人向けでリアリティのあるビジネスものが続いていた。
 「行列の女神」も鈴木京香が演じるラーメン専門コンサルタント会社の社長が主人公で、苦境にあえぐ店を繁盛に導く展開は、これまでの路線を踏襲している。ただ、そこに同枠では若い23歳の黒島が、実質的にW主演のポジションで入り、新しい風を吹かせた。
 彼女が演じる汐見ゆとりはコンサル会社の新入社員で、ド天然で空気をまったく読まない。ラーメンを初めて食べたのが半年前なのに、自分で作れば誰もが唸るおいしさという天才肌。一方、クライアントとなる店のラーメンを店主の前で「老人がトボトボ歩いてるような味」などとサラッと酷評したり。
 会社でコピーを取りながら、「どんぐりころころ」の妙な替え歌で「♪コショウが出なくてコンチキショー、おっちゃん一発殴らせろ~」と歌ったりするのも笑わせる。Sっぽい社長の鈴木京香との掛け合いもおかしいが、黒島はマンガっぽいキャラクターをテンション高く表情豊かに演じながら、それもまたかわいくて。
 
 

世代を越えた偶像が出ない時代に
全国民の目を向けさせられるか

 
 
 黒島が10代の頃、事務所に取材を申し込んで「今は全部お断りしてる」と言われたことがある。出演作もどちらかと言うとシリアスな役が多く、アイドル売りはしないようだった。緊張感ある演技もしっかり見せつつ、「アシガール」辺りから良い意味で役者としてのアイドル性が現れて、「行列の女神」では意図的にそこを押し出しているようでもある。結果、より親しみやすさが出て、彼女の国民的ヒロイン感はさらに増した。
 若者から年配層まで、男女問わず愛される女優。60年代なら吉永小百合、70年代は山口百恵がそんな存在だったのだろう。リアルタイムで知っているわけではないが。
 80年代以降になると、トレンディドラマの隆盛もあり、視聴率女王と言われたりする人気女優はいたが、老若男女に支持されるタイプは少なくなった。これは女優に限らず、時代の流れからの必然。
 たとえば音楽でもジャンルや趣向の多様化により、CDが100万枚売れても特定層以外には聴かれない状況に。テレビも一家に一台からひと部屋に一台となり、今やスマホで配信で観る時代。平均視聴率がコンスタントに40%を越えていた朝ドラさえ、2000年代には10%台に落ち込んでいた。作り手側もターゲットを絞りがちで、世代を越えて話題を共有できる国民的女優は生まれにくい。
 それでも黒島結菜には、誰からも愛されそうな資質がある。ナチュラルにかわいらしいキャラクター、シリアスからコメディまで万遍ない演技力、つい見入ってしまうルックス。ドラマ離れの逆境を打ち破り、全国民が目を向けるヒロインになれるはずだ。あとは、もう一歩の知名度だけ。
 この原稿は何年か経って読み返しても、恥ずかしいことにはならないと信じている。
 
 

Text:斉藤貴志