はじめてクロスしたアイドル時間差ロマンス
7月13日。
取材を終えて、夜10時過ぎに帰宅した僕は録画していた『坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT』(CS・フジテレビNEXTにて放送中)を再生しながら、その日の取材をまとめる作業をしていた。
すると、耳を疑うアナウンスが……。たしかに玉井詩織が「次の曲は『アイドルばかり聴かないで』です」と言った。
まさにNegiccoを代表する楽曲のタイトル、である。へぇ~、そんなカバーもするんだなぁ、と驚いていたら、佐々木彩夏が「スペシャルゲストのNegiccoさんです!」と3人をステージに呼びこむではないか!
いきなり実現した、ももクロとNegiccoの初共演。
「いつかこんな日がくればいいね」と話してはいたが、その「いつか」がこんなにも早く、そして突然やってくるなんて、もう驚きの連続である。
本当にシークレットゲストだったので、僕は事前になにも聞いていなかった。いや、どうせ現場に来るんだから伝えなくてもいいだろう、と思われていたのかもしれない(そういうケースはももクロ現場ではよくあるのだ)。
取材日がなるべく重ならないように、今、アイドルの仕事はかなり絞りこんでおり、なかなかハッスルプレスに登場するようなフレッシュガールたちを取材する機会はない。絞りこんだ取材対象のうちの2つである、ももクロとNegiccoが同じステージに立っている瞬間、たまたま別のアイドルの取材をしていたのだから、本当にこの仕事は難しい。
8人がステージ上に並んでいる姿を見て「なんで、今日に限って現場に行けなかったんだ!」と悶絶すると同時に「あぁ、でも、これでよかったんだ」とも思った。
もし、現場で取材をしていたら、楽屋でNegiccoに遭遇してしまい壮絶なネタバレは回避できなかっただろうし、テレビの前で「うおーっ!」と声をあげてしまうような驚きと感動は味わえなかったはず。なによりも人目をはばからずに号泣することもできなかっただろうから、なにも知らされずに自宅で目撃することが、きっと、いちばん幸せだったのだ。
僕は2011年からももクロを、そして2012年からNegiccoを追いかけてきた。
Negiccoを追うようになったきっかけが、僕のももクロの記事を読んだ編集者から「Negiccoの連載を担当してもらえないだろうか?」というオファーがあり、一度もステージを見ていないまま仕事を引き受けるのは失礼だから、と彼女たちのライブに足を運んだところからはじまっている。つまり、ももクロに出会っていなかったら、Negiccoにも出会えなかった。そんな経緯があるだけに、この2組の競演はうれしすぎるし、感慨深すぎるし、ちょっと信じられない出来事でもあった。延々、共演シーンを繰り返し、繰り返し再生してしまったので、その日はまったく仕事にならなかったぐらいだ。
来年15周年を迎えるNegiccoと、10周年を迎えるももクロ。
キャリアではNegiccoのほうが長いが、いつしか、彼女たちはももクロの背中を追いかけていた。あまりにも遠く離れすぎて、もう追いつけないかもな、と思った時期もあっただけに、同じステージで8人が横並びになる瞬間がやってくるなんて……。デビューに5年もの時間差がある2組が、紆余曲折を経て出会うロマンス。アイドルって、続けていくことで、いろんな夢を見ることができるのだ。
ももクロとNegiccoのあいだには、いろいろな歴史がある。たとえば、昨年、新潟で開催された『ももたまい婚』にも、メンバーのMeguが訪れている。
当日はエンディング後にちょっとしたトラブルが発生し(詳しくは発売中の『ももクロ独創録』をお読みください)、楽屋前で待っていたMeguは2人と挨拶を交わすことができなかったのだが、その待ち時間に坂崎幸之助さんとお話しすることができた。
Negiccoが武道館を目指していることを伝えると「大丈夫だよ。僕たちだって、まったくヒット曲がないまま武道館でやっちゃったんだから。焦る気持ちもわかるけど、焦らないことがいちばん大事」というありがたい言葉をいただいた。
そのときのことを覚えていてくれた坂崎さんが「Meguちゃんは昨年の『ももたまい婚』以来だね」とステージ上で声をかけてくれた。人と人の縁は、こうやってつながっていく。『ももたまい婚』のバックステージで起きたことは、本当にドラマティックすぎたので(いくつもの偶然が数珠つなぎになって、短時間で状況がどんどん転がっていったのだ)、いつか本人たちのコメントを交えて、どこかでがっつり書きたいと思う。
この夏、僕は『ももクロ独創録』と『Negiccoヒストリー Road to BUDOKAN2003-2011』という2冊のアイドル本を出版した(じつはもう1冊『アイドル×プロレス』という本も書いたのだが、その話はまた明日にでも……)。
この2組のドラマは、いつか共演が実現したときにまとめて、と考えていたので、どちらの本にも記載はない。複数のアイドルが登場するお話は、それぞれのファン気質が違うので、かなりデリケートに扱わなくてはいけない。
ただ『Negiccoヒストリー』を読んだ上で、ももクロがデビューしたころに、一度はアイドルを辞めて就職しようと考えていた少女が、10年近く経って、ももクロと同じステージに立っている、という大河ドラマは感じとっていただけるかと思う。まったく別モノだったはずの2冊の書籍が、奇跡の共演によって、いろいろな部分でリンクしてきた。
じつは『Negiccoヒストリー』は本のタイトルに「2003-2011」とあるように、彼女たちが結成してから、T-Palette Recordsと契約するまでの8年間を描いたもので、その長い歴史の半分でしかない。
そもそも雑誌『BUBKA』で彼女たちの連載をスタートしたときは、1年間かけて、すべての歴史を振り返り、それを1冊の本にまとめよう、というプランだった。
それが連載から1年半をかけて、やっと8年分。本当だったら、連載終了を待って書籍化するべきなのだろうが、連載はまだ1年以上、続きそうだし、それを1冊にまとめたら、おそらく500ページを超える大作になってしまう。
そこまでブ厚くなると、本当に熱心なファンだけに向けたコレクターズアイテムと化してしまう可能性が高い。だったら、ちょうどキリのいい「T-Palette入り」というターニングポイントまでをひとくくりにして、いわば「前編」として出版してしまおう、という話が急浮上。残りは来年以降に「後編」としてまとめればいいし、今回の本がきっかけとなって、新しくNegiccoのファンになってくれる人が1人でも増えてくれれば……。なかなかダイナミックなプランだが、そこはもう版元である白夜書房の英断に感謝するしかない。
きっと、HUSTLE PRESSを閲覧している方々は、さほどNegiccoに興味はないんだろうな、ということはわかる。ただ、この物語のスタートは14年前。彼女たちが小学生や中学生だったところからはじまる。『U18』どころか『U15』』の世界である。
結成当初こそ、まだ珍しかったローカルアイドルとして注目され、早々とNHKの全国放送にも出演するが、運悪く、アイドル界隈ではモーニング娘。の一大ブームが終息し、アイドルへの注目度が落ち始めてきた。そう、Negiccoはモー娘。とAKB、ふたつの社会現象的なアイドルブームを現場で体感してきた、数少ないアイドルなのだ!
その間、何度となく訪れる離脱や解散の危機。たぶん、東京に進出していたら、早々に解散に追い込まれていただろう。それが故郷・新潟に住み、実家から通う、というローカルアイドルならではの特殊な環境が3人を危機的状況から守ってくれた。彼女たちの歴史は、そんな奇跡の物語でもある。
きっと、すべてのアイドルがぶつかる壁。
それをいくつも乗り越えてきたNegiccoの物語は、すべてのアイドルファンだけではなく、すべてのアイドルに読んでもらいたい、と思えるほどリアルな体験談だ。14年も一緒に活動を続けてきた3人の生き様は、多くのアイドルにとって「道しるべ」になるんじゃないか、と思う。
Negiccoとの共演から数日後、玉井詩織と取材現場であった。
来年は10周年だね、という話をしていたのだが「うーん、でも、私たちは10周年を目標にしてきたわけじゃないし、まだ1年近くあるから、あんまりピンときていないし、そのあたりはボンヤリしているんだけど、このあいだ、Negiccoさんから『来年で15周年になります』って言われて、『あっ、私たちにもお手本がいるんだ!』って、なんか、すごく励みになりました。あと5年はがんばれるなって」。
すっかりアイドルにとっての「開拓者」になっていたももクロにとっても、3人の背中はやっぱり「道しるべ」になっていたのだ。
今回の本は1枚の年表を基に、ひとつひとつの事象について、3人のメンバー、そして当時から関わっているスタッフが証言を重ねて、今一度、歴史を振り返る。リアルタイムで現場を追いかけた『ももクロ独創録』とは、まったく逆の作り方をした1冊であるが、彼女たちの生き様って、ももクロが好きな人には、結構、刺さるんじゃないかな、とも思っている。なにせ、僕がそうでしたから……。ももクロとの共演の翌日に『GIRLS’ FACTORY NEXT 17』のステージで、たこやきレインボーや3B Juniorとコラボする3人の姿に少しでも興味を持たれた方には、ぜひ、手に取っていただきたい1冊です。
ちなみにNegiccoが参加するTIF(8月6日のみ)では、特製Tシャツのついた限定豪華版の物販もあるので、彼女たちの歌声とパフォーマンスを目撃した上で、そちらをゲットする、という手段もアリ。来年で15周年を迎えるNegiccoだが、この本を読んでいただければ、まだまだ彼女たちと一緒に「Road to BUDOKAN」を目指す旅路に間に合います!
ライター・小島和宏