PICK UP ACTRESS 萩原みのり
PHOTO=城方雅孝 HAIR&MAKE=宇賀理絵
STYLING=瀬川結美子 INTERVIEW=斉藤貴志
衣裳協力=イジット/イジットアンドコーリミテッド表参道、エンチャンテッド/グランデ
映画「ハローグッバイ」で初主演
友だち関係に揺れる女子高生をリアルに
――最近、映画やドラマへの出演が続いてますね。
「おかげさまで6月、7月はたて続けに公開やオンエアがあります」。
――発表前の作品もあるそうで、忙しくなってきました?
「そうでもないです(笑)。ずっと危機感のほうが強くて、もっとお仕事したいと思ってます」。
――出演作が増えて、演技の仕方や取り組み方で変わった面はありますか?
「意外と変わらなくて、ずっと読み合わせ前は緊張するし、不安もあります。ただ、前に比べると不安自体を楽しめるようにはなりました」。
――初主演の「ハローグッバイ」も、そんな感じで臨めたんですか?
「主演ということで、また少し違いました。ただ演じるだけではなく、作品自体のことや作品の裏まで考えたり、いろいろなことがありました」。
――他の現場ではなかったことも?
「まず、監督とお話する時間がたくさんあったのが初めてでした。もの作りに1から参加させてもらえた感じで、普段聞けないようなことまで聞けたりしました。脚本の最終段階で『ここをどうしようか悩んでいるんだけど、どう思う?』みたいなことまで相談していただけました。自分が中高生の頃に何を感じていたかを監督と2人で全部細かく話して、それをストーリーに取り入れていただいたのも初めての経験でした」。
――そうすると、作品にリアルさは感じました? みのりさんが演じたクラスで目立つ存在のはづきと、久保田紗友さんが演じたひとりぼっちの優等生の葵という、対照的な2人が主人公ですが……。
「たぶん中高生の女の子やその頃を経験した人なら、はづきにも葵にも共感できる部分があると思います。私自身、中学生のときははづき寄り、高校生のときは葵みたいにしていられるようになったので、台本を読んでいて、2人とも心当たりがある感じがしました」。
――「葵みたいに」というのは、クラスで1人でいて……ということですか?
「そうですね。中学の頃は人に合わせることをすごく意識していたし、自分には学校という小さい世界しかないと思って生きてましたけど、このお仕事を始めて学校以外にもいろいろな世界があると知ってから、1人でいるのも苦ではなくなりました。孤独感や寂しさはあっても……」。
――一方で、はづきみたいに友だちの前で演じるようなところも?
「ありました。少しテンションを作るというか。はづきが友だちと会う前に笑顔を作る場面がありましたけど、あれは芝居というより自分自身も経験したことです。友だちの前では無意識に演技をする。学校で友だちと笑っているときの自分は、家で笑っている自分とはやっぱり少し違っていたと、すごく感じました」。
――みのりさんの中高生時代は劇中のように、もうLINEでのやり取りが多かったんですか?
「やってました。それこそ中学のときはメールも全部『早く返さなきゃ』とすごく意識してましたし、友だちに必死にしがみ付いていた感じです。グループも確立されていて、『このグループに入ってるから、あの子とはお昼を食べない』みたいな気持ち悪いことを平気でやってました。高校になってからは自分というものをちょっとは持てるようになったので、人に合わせすぎず、しがみつかず、連絡を返さなくても大丈夫にやっとなれてきましたけど、中学時代ははづきみたいにLINEを必死に送ってました」。
――当時は「気持ち悪いこと」とは思わずに?
「傍から見たらすごく気持ち悪いと思いますし、映画のなかで何度も使われていた『私たち、友だちだよね』という台詞も『そんなこと言わないよ』というのがありますけど、自分が中学のときは平気で言えてました。だから、みんなが言葉には出さないけど心の隅に抱えていることが、この映画を観ると刺さるんじゃないかと思いますね」。
――そうすると、今回のはづき役は“作った”というより……。
「監督とほぼゼロからお話できたので、自分の経験を入れていけたり、自分のなかの引き出しや、気づいてなかったけど監督に『はづきもそうじゃない?』という共通点を見つけてもらえて、少しずつはづきになれました。人としゃべっているときと1人でいるときの表情の差も自然に付いていったし、お芝居をしたというより現場で常にはづきでいられて、自然に出た顔のほうが多いです。完成した映画を観て、自分で『こんな顔をしていたんだ!』と思うところが何度もありました」。
――背負っているリュックの肩ひもを常に両方とも握っていたのも、自然に出た仕草ですか?
「でも、あれは結果として、少し自分を守っているように見えました。心からハッチャケているわけではなくて、ちょっと殻にこもっている感じが出たかな?」。
――久保田紗友さんとは同じ事務所ですが、もともとどんな関係だったんですか?
「お互い知ってはいたけど、一緒にお仕事したことはなかったし、話すきっかけはまったくありませんでした」。
――今回の撮影に当たっても、役柄的にあえて距離を取ったそうですね。
「クランクイン前はずっと距離を取ってました。リハーサル期間が1週間ぐらいあって、監督が私と他の役の人との距離感を1人ずつ作らせてくれたんです。元カレ役の小笠原海くんとはまずつき合っていたときの距離感を作ってから、別れたあとの距離感をまた作ったり……。私は初めての主演でしたけど、映像のお仕事が初めての子もいたので、1人ずつ不安を消してあげたくて、おのおのと連絡をオフの時間に取るようにもしました」。
――普段からまとめ役的なタイプなんですか?
「そういうことをまったくしないタイプです。人見知りでしゃべらないし、連絡先を交換すること自体、私はあまりありません」。
――今回は主役としての責任感から?
「そうですね。監督にも『あなたが座長だから』と最初にすごく言われて、意識が変わってきました。現場の空気感は自分で作らないといけない。友だち役の子たちとグループLINEも作って、映画に出てくるようなLINEでのやり取りを裏でも実際みんなでやったりしました。でも、そこに紗友ちゃんは入ってません。リハのあとも、仲良しグループ役のみんなとは距離を縮めるためにごはんに行ったりしたけど、紗友ちゃんとは逆に距離を置きました。仲良くなっちゃうと、たぶんお互いの好きなところが見えてきちゃうから、そうならないように。あえて敬語を使って壁を作ったりもしました。クランクインしてから少しずつ話すようになって、作品と同じ速度でお互いを知っていって、最後にあの距離感になれました。8日間の撮影中ずっと、はづきと葵の距離でいられたと思います」。
演技をしようとはしてなくて
その場で生まれた感情のままに
――葵の家で2人がケンカするシーンは緊張感もありました?
「緊張より『私が遠慮したら向こうも遠慮しちゃう』という気持ちがすごくありました。芸歴は紗友ちゃんのほうが長いけど私のほうが年上だし、遠慮したらダメだなと。私は本当は感情的になることがあまりなくて、家族以外に文句を言うことはないんです。でも、あそこはガチで行って、向こうもたぶん本気で来てくれて、次の日はアザだらけ(笑)。ちゃんとケンカできました」。
――どこにアザができていたんですか?
「それは全然覚えてないです。その日家に帰ってからアザがあるのに気づいて、『なんでだろう?』と思って、翌日に紗友ちゃんも『アザがあった』と言うから、『きのう何したっけ? あっ、ケンカのシーンか!』みたいな感じでした」。
――ゴミ箱で殴ったり、動きは決められていたんですか?
「なかったです。その場で付けられたり、やっていたらそうなったり……」。
――あそこで互いの痛い部分を突き合って本音もむき出しにしたあと、2人の距離が一気に縮まったようですが、その辺の心情の変化については考えました?
「この映画では、お互い“芝居”をしようとしてません。あとで取材で紗友ちゃんも『お芝居している感覚がなかった』と言ってましたけど、2人とも頭で考えたというより、はづきと葵として、その場でリアルに感じたままの感情を出していました。だから映像になったとき、あれだけ繊細に気持ちが出ていたのは自分でもビックリしました」。
――クランクアップのあとで「紗友ちゃんで良かった」とメールしたそうですが、どんな意味での「良かった」だったんですか?
「はづきも葵もお互いをクラスメイトとして知ってはいるけど、どんな子か深く知っているわけではなかったのが、私と紗友ちゃんの関係に似ていて、ストーリーと同じように進めていけました。現場で紗友ちゃんが少しずつ変わっていくのも見えました。最初は壁があったのが、私が自分の撮影から戻ると、紗友ちゃんがお弁当を食べずに『みのりちゃんを待ってた』とか……。そういう変化が私もうれしかったし、『一緒にお仕事できて良かった』とすごく感じました」。
――紗友さんもそう思ったでしょうね。
「わかりませんけど、クランクアップしたとき、『みのりちゃんが疲れとか全然出さないのを見て、私も頑張らなきゃと思った』と言われて、『良かった』と思いました。私は頑張ろうと思って頑張ったわけではなく、気持ち的に楽しさのほうが勝っていて疲れはなかったんですけど、さっき言ったようにクランクインしてからも1人1人と連絡を取って、『監督さんたちに言いにくいことでも、あったら全部言って』と呼び掛け、何でもぶつけてもらってはいました。紗友ちゃんとも後半は壁がなくなり、普通に連絡も取って『今日はどうだった?』みたいな話もするようになりました。それで現場に行ったら、みんなで一緒に頑張る。たった8日間の撮影だった感じはしないくらいです」。
――話の本筋と関係ないんですが、走るシーンでのみのりさんの走り方がカッコ良かったです(笑)。
「ずっと運動をやっていたから……というのはあるかもしれません。田舎育ちで小学校のときは田んぼのなかを走っていたし、小学校低学年から中学まで新体操をやっていたから、体を動かすことは好きです。今もジムで走ったりはします」。
――試写を観たときも、主演作は格別な気持ちになりました?
「どうだろう? 私はもともと自分から『この仕事をやろう』と思って入ってきてないのが大きくて、まだ映像に出ている自分に慣れず、違和感が常にあります。今回みたいに自分がずっと出ている作品は初めてで、余計に違和感はありました。でも、それ以上に撮影中は映像を1回も観なかったので、どんな画でどう撮られているか、まったく知らずに本編を観て驚きもありました」。
――現場でモニターチェックもしなかったんですか?
「まったくしてません。だから、たぶん客観的にならずに、ずっとはづきのままでいられました。一度モニターを観ちゃうと、『こんな芝居をしているのか。じゃあ、ここを変えてみよう』みたいなのが出てきたと思うんです。あと、完成作品を観て、いい意味で裏切られたのが、高校生の友情だけではなく、おばあさんを介することで大人の人の忘れていた友情とか親子の絆とか、いろいろな人間関係が描かれていたことです。思った以上にすごく深い作品になっていて、『菊地(健雄)監督、すごいな』と感心しました」。
――ラストシーンでのみのりさんの表情も印象的でした。
「あそこで出たのは、言葉で表せるような感情ではなかったからですね。映画を撮ってきて、あれだけの感情になれるくらい、はづきでいられたこと自体が、うれしかったです」。
――この作品に主演して、女優として目指すものに変化があったりもしました?
「もたいまさこさんのことが大好きになりました。現場でのもたいさん自身、年の全然離れた私たちにも冗談を言ってくれたり、控え室で3人でいる時間を作って話しやすい雰囲気にしてくれたりしました。そんなことができる大人になりたいと思いました。お芝居でも、ただ背中を見ているだけで何かを感じて心が動いてしまう……。それってすごいことだと思うんです。もたいさんと出会えて、うれしかったです」。
――そして、みのりさんは20歳になって初めての夏を迎えます。
「お酒を飲めるようになったのが、すごくうれしいです。私は完全にお父さんっ子なので、この前名古屋の実家に帰ったとき、お父さんとお昼から飲んだのが楽しかったです。去年はずっと舞台で実家にも帰らず、あまり夏っぽいこともできなかったから、夏はまた実家に帰って、夏っぽいところで時間を気にせず、家族とお酒を飲んだりできたらいいな」。
――お父さんと飲んだということは、ビールですか?
「そうです。私もビールが好きです」。
――20歳になったばかりだと「苦くてダメ」とか、ありませんでした?
「全然なかったです。ちょっと違和感はありましたけど、みんなが『飲めない』というほどではなくて、むしろ甘いお酒のほうがごはんに合わないと思ってダメでした」。
――いわゆるイケるクチなんですかね(笑)?
「そうなのかな。昔からおつまみが好きで、お父さんが飲んでる横でつまんでました。今は普通に飲めるようになって、ちょっと世界が広がった気がします(笑)」。
萩原みのり(はぎわら・みのり)
生年月日:1997年3月6日(20歳)
出身地:愛知県
血液型:B型
【CHECK IT】
2013年にドラマ「放課後グルーヴ」(TBS系)で女優デビュー。主な出演作はドラマ「さよなら私」(NHK)、「表参道高校合唱部!」(TBS系)、映画「劇場版 零~ゼロ~」、「人狼ゲーム クレイジーフォックス」、「64 -ロクヨン-」ほか。現在、ドラマ「ソースさんの恋」(NHK BSプレミアム/木曜23:00~)に出演中。映画「昼顔」が公開中。初主演映画「ハローグッバイ」は7月15日(土)より渋谷ユーロスペースから全国順次公開。映画「心が叫びたがってるんだ。」が7月22日(土)より公開。
詳しい情報は公式HPへ