PICK UP ACTRESS 唐田えりか

PICK UP ACTRESS 唐田えりか

PHOTO=mika INTERVIEW=斉藤貴志

 
 

映画「寝ても覚めても」で初ヒロイン
同じ顔をした2人の男性に揺れる役

 
 

――えりかさんの取材ではいつも「映画をたくさん観ている」という話が出ますが、自身が初めてヒロインを務めた映画「寝ても覚めても」を観るのは、やっぱり全然違う感覚でしたか?

「試写で観ましたが、スクリーンにあんなに自分が映っているのも、自分の顔があんなにアップになっているのも初めてなので、ずっと『あっ、自分!』という新鮮な感覚でした(笑)。それと、現場で濱口(竜介)監督に『芝居相手のことをちゃんと見ること、聞くことをしてください』と言われていて、私の肉眼で見た皆さんのお芝居がそのままスクリーンに映っていました。『カメラは本当にちゃんと映すんだな』と初めて知って、怖くもなりました」。

――と言うと?

「本当のものは本当に映るから、逆にウソはウソのまま映るとも思えて、ちょっとゾッとしたんです。そういうことを考えながら観ていて、感情移入が素直にできたわけではなかったんですけど、観終わったあとに『すごいものができたんだろうな』という感覚はありました」。

――実際、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の出品作に選出されました。「知らない自分だらけ」というコメントも出されていましたが、演じた朝子の中に知らない自分が特に出ていたのはどの辺のシーンですか?

「(昔の恋人の)麦が突然姿を消してから8年経って朝子の家を訪ねてきて、ドアを締めて両耳をふさいでうずくまっていたときの表情が『こんな自分の顔は見たことない』と思いました。他にも防潮堤で海を見ているところとか、本当に自分の知らない顔だらけで発見がいっぱいあって、うれしかった反面、もっと自分自身のことを知りたいとも思いました」。

――表情だけではなく、自分で思いもよらなかった気持ちが出たりもしました?

「この映画の撮影では、さっき言ったように相手のことをちゃんと見て聞いていたら、そこで感じたまま、勝手に台詞が自分の内側から出てきました。そういう感覚も初めてで、『お芝居ってこういうことなんだ』と基盤を教えてもらったように思います」。


――撮る前に考えていたのと違う感情になったりも?

「ありました。最初に脚本を読んだときは、簡単に言えば楽しいシーンは楽しい気持ちだろうし、寂しいシーンでは寂しくなるだろうとか、何となく考えていた部分がありました。でも、濱口さんに『ああしよう、こうしようとか一切考えなくていい』と言われてからは、事前にまったく考えないようにしました。テストでも感情を入れず、本番で初めて感情を入れて撮っていたんです」。

――あえて、そういう撮り方をしていたんですね。

「濱口さんが生ものの感情を大事にされていて、『前のテイクと違う動きやニュアンスでも全然いい』ということでした。だから、私は現場で完全に無の状態でいられました。『こうしよう』とかまったく考えてなくても、他のキャストさんのお芝居を見ていたら、そこで感じたまま、ちゃんと自分の中から感情と言葉が出てきました」。

――大阪弁での演技もハードルにはならず?

「私は標準語しか話せないので、大変ではありました。方言指導の方にお手本の音源をいただいて、ひとつひとつの台詞に“すごくゆっくり、ゆっくり、普通”の3バージョンがあったんです。それを移動中もお風呂に入っているときもずーっと聴いていて、体に馴染ませたら、そんなに苦ではなくなりました。感じたことをそのまま大阪弁でしゃべれていました」。

――朝子に自分っぽさも感じたそうですが、それは直感で動くようなところですか?

「そうですね。私も直感で良いと思ったものは良いですし、良くないと思ったものはシャットダウンしてしまうところがあるんです。理屈より、そういう部分で動いている気はします」。


――じゃあ、朝子の言動はだいたい理解できました?

「初めて脚本を読んだときから感情移入できました。朝子の行動に疑問点とかは一切なかったです」。

――「一切」ですか? 麦と顔がそっくりの亮平(東出昌大=二役)と5年つき合って結婚も決めた朝子が、再び麦が現れて取った行動に対して、たぶん多くのお客さんが「エーッ!?」となる気がしますが、そこもえりかさん的には違和感なく?

「なかったです。ただ、あのシーンを撮っていたとき、私は亮平の顔を一切見てなかったんですね。試写で初めて見て、何だかすごく苦しくなりました。『こんな顔にさせてしまっていたんだ……』と思って、確かに辛くなりました」。

――そのときの朝子は直感というか衝動で動いたんでしょうか?

「そうですね。もちろん亮平のことは愛していた。でも、目の前に現れた麦のことをどこかで必要としていた自分にも気づいてしまった。ひとつひとつにウソはなかったけど……みたいな感じでしたね」。

――傍からは危うい女性に見えます。

「確かに危ういですね。そんな朝子が自分っぽいというと、私も危ういことになっちゃいますけど(笑)」。

――こちらから「危うい」という言い方をしましたが、えりかさんが朝子を形容するなら、どんな女性だと思います?

「やっぱりウソがない人だと思います。良い意味でも悪い意味でも。その結果、亮平に対して取った行動は良くないとしても、そこまでウソがないのは朝子の強さでもあって、良いところだとも思います」。

――恋愛絡みの部分ではありませんが、朝子と一緒に暮らしていた舞台女優のマヤ(山下リオ)の演技に対して、亮平の同僚の串橋(瀬戸康史)が批判したとき、朝子は「マヤちゃんの努力は的外れじゃない!」と語気を荒げて反論してましたよね。あれも朝子の何かを反映していると思いますか?

「朝子が初めてちゃんとしゃべった場面ですよね。撮影前のワークショップで初めて山下リオちゃんにお会いしたとき、私は朝子、リオちゃんはマヤになって話をしながら、お互いを役として知っていくことをしたんですね。私は、特技もなくて本当に普通で『自分には何もない……』みたいなところが朝子とすごく似ていると思いました。演劇をやっているマヤの話を聞いていたら、明確な目標があって、ひたすら頑張っていて、毎日いろいろ大変な中でも楽しんで生活しているように感じたんです。だから串橋が『的外れなんだよ』とか言っているのを聞いて、『この人、何を言ってるんだろう?』と思いました」。

――さっき出たように、自然にそういう感情になったと。

「フツフツと『マヤちゃんのことを何も知らないくせに!』という感情になりました。だから、あそこで朝子がバーッと言ったことは台詞ではあっても、自分の気持ちから本当に出てきた言葉でした」。


 
 

どこが良いのか明確に言えないのに
涙が止まらなくなる作品が好きです

 
 

――撮影前に緊張したシーンはありませんでした?

「現場では完全に無だったのですが、キスシーンは初めてだったから、脚本をいただいたときはハッとして緊張しました。しかも撮影初日が、私から積極的に行くキスシーンだったんです。でも撮影期間中は、私は麦も亮平も本当に好きだったので、現場ではヘンに緊張せず、普通に『好きだから……』という感じでした」。

――キスシーンは何度かありましたが、冒頭で会ったばかりの麦といきなりキスするところも緊張はなく?

「これは言っても信じてもらえなさそうだから、濱口さんにしか話してないんですけど……。顔合わせで初めて東出さんとお会いしたとき、部屋の窓の前に背中向けに立っていらっしゃって、私が入ったら、そこに東出さんしか見えなくて、周りが真っ白みたいになったんです。『なぜ真っ白なんだろう?』という中で、東出さんが振り返るまでが全部スローモーションのように見えて『エッ!?』となりました。最初のキスシーンもそんな感じで、完成した作品を観ると固まっている自分がいて、初めて東出さんにお会いしたときの経験とリンクしました。麦が近づいてきて、しゃべり掛けられて、『あっ、キスされた……』みたいな感じで全部受け入れていて……。そういう意味では、緊張はあったかもしれません」。


――朝子が固まったのと同じ意味の緊張ですよね。一方で、朝子が亮平と暮らしていたところは、穏やかな幸福感がありました。

「ゆったりとした時が流れていた時期ですね。そのときは亮平のことがすごく好きでした。麦といるときはずっと不安と背中合わせだったのが、亮平といると愛に包まれているようで……。どっちも演じているのは東出さんなのに、麦と亮平は全然違うように感じさせてくれて、すごいと思いましたし、私の心の持ちようもまったく違っていました」。

――亮平に「どうしたらいいかわからないくらい好き」とまで言ってましたね。なのに、麦がまた現れたら……。

「本当にウソがつけないというか、直感で後先考えないというか……。朝子は今この瞬間を生きている感じですね」。

――恋愛のような大きいことではなくても、えりかさんも何かの二択で揺れることはありますか?

「食べ物に関してはめちゃくちゃ迷います。お弁当をお肉にするか、お魚にするか……とか(笑)。スタッフさんやキャストさんによく『悩むね』と言われます」。

――そこで直感は働かず(笑)?

「そうなんです。常にダイエットをしていることもあって、食事は1回1回が真剣勝負なので(笑)。あと映画のDVDを借りるときも、5作まで1000円だったら、その5作をどう絞るか悩んで、いつも時間がかかります。次に来たときに違うのを借りればいいんですけど(笑)」。

――劇中ではジンタンという猫と絡むシーンも随所にありましたが、えりかさんは猫アレルギーだったのでは?

「はい……。なので薬を飲んでいたんですけど、ずっと一緒にいるとくしゃみが出たり、抱いていると腕にじんましんが出ちゃったときもあって、濱口さんが気をつかってくださって、氷嚢を用意してくれたりしました。でも、ジンタン役の“ハの字”という猫がすごく優秀で、余計な時間がかかることはなかったです」。

――クランクアップのときはどんな気持ちになりました?

「撮影期間中、ひとつひとつのシーンが終わっていくのが寂しくて……。最後は私1人でアップしたんですけど、街で『帰ります』って走るシーンだったんですね。アップしたくなかったので、『コケたりしようかな』とかふざけて濱口さんに言ったりしてました(笑)。カットがかかって、濱口さんが大きな声で『ハイ、OKです!』と言ってくださったときは、『ああ、終わったんだ……』とすごく感慨深かったです。達成感以上に、みんなとお別れするのが本当に寂しかったです」。


――それだけえりかさんにとって大きな作品だったんでしょうけど、撮る前と取った後で、どんなことが変わりました?

「私はずっと演技に対して苦手意識が強かったのが、この作品に出会えて、やっと前向きになれました。お芝居のことをもっと知りたい、もっといろいろなことをやりたいという気持ちになって、女優としてのスタート地点に立てた感じがしました」。

――人として変わったところもありました?

「自分で言うのもおこがましいですけど、撮影中にいろいろな方から『すごくきれいになりましたね』と言っていただきました。劇中で本当に恋をしていたからだと思います。モデルのお仕事でも『寝ても覚めても』を撮ってから、カメラマンさんに『表情がめちゃくちゃ変わったよ』とよく言われます。本当に自分にとって大きな作品に出会えたと思います」。

――以前は毎日映画を1本見て感想文を書いていたそうですが、「寝ても覚めても」について書くとしたら?

「難しいですね(笑)。朝子の取った行動について『ありえない』と非難する方も、共感してくださる方もいると思います。1人1人、伝わることは絶対違うでしょうけど、それぞれの方に伝わったものの中に、何か感じてもらえるものは必ずあるはずなので、それを大事にしていただきたいです」。

――今はさすがに毎日映画を観るほどの時間はないですよね?

「作品の撮影に入っているときは観ていませんでしたけど、最近ちょっと落ち着いてきたので、また少しずつ観て感想も書いています」。

――何か良かった作品はありますか?

「ずっと観ようと思って観られなくて、やっと観られた『ケンとカズ』です。『寝ても覚めても』もそうだと思いますけど、『ここが良かった』とか明確に言えないんです。でも、観終わったら涙が止まらなくて、『この感情はいったい何なんだろう?』と、あとからすごく考えさせられました。私自身、観終わったあとにずっと余韻に浸ってしまったり、放心状態になる作品が大好きなので、これからもそういう作品にたくさん出会いたいし、自分でもやっていきたいと思っています」。


――「寝ても覚めても」に続いてヒロインを演じた映画「覚悟はいいかそこの女子。」も公開になりますし、韓国でCM出演などの活動も始まって絶好調のようですが、プライベートでも最近いいことはありました?

「お仕事で出会って仲良くなったカメラマンさん、スタイリストさんと熱海で1泊旅行をしてきました。作品撮りのような感じで写真を撮っていただいて、いろいろな洋服も着させていただきました。地元にも友だちはたくさんいますけど、東京でもそういう関係になれた人たちがいます。熱海では缶チューハイを飲みながら夜の海辺を歩いて、写真を撮ったり花火をしたりもして、すごく楽しい時間を過ごしました」。

 
 


 
 

唐田えりか(からた・えりか)

生年月日:1997年9月19日(20歳)
出身地:千葉県
血液型:A型

 
【CHECK IT】
マザー牧場でアルバイト中にスカウトされて芸能界入り。2015年にCMに出演して注目される。主な出演作は、ドラマ「こえ恋」(テレビ東京ほか)、「ブランケット・キャッツ」(NHK)、「トドメの接吻」(日本テレビ系)、映画「ラブ×ドック」など。「MORE」(集英社)の専属モデル。韓国でオンエア中の化粧品ブランド「JAYJUN」のCMに出演。映画「寝ても覚めても」は9月1日(土)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開。「覚悟はいいかそこの女子。」が10月12日(金)より公開。
詳しい情報は公式HPへ
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「寝ても覚めても」

配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
詳しい情報は公式HPへ
 

 

 

(C)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS
 
 

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