PICK UP ACTRESS 駒井蓮
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
映画「名前」で初のW主演
拠りどころを探す女子高生役
――蓮さんがW主演を務めた「名前」は胸に染みる映画でした。撮ったのはわりと前なんですよね?
「高校1年の8月くらいで、もう2年前になります」。
――撮影中のことは今もよく覚えていますか?
「その期間中、『名前』ノートみたいなのを作っていたんです。撮影中に思ったことをひたすら書いていて、この前、久々に読み返して『こういうことを考えていたんだ』と記憶がいろいろ戻ってきました」。
――どんなことが書いてありました?
「私が演じた笑子について、『こういう子だから』と監督に指摘されたことを書き連ねているページがありました」。
――笑子はざっくり言って難しい役ではなかったですか? 本当のところがなかなか見えないというか……。
「はい。津田(寛治)さんが演じられたおじさんといるとき、お母さんといるとき、友だちといるとき……って雰囲気が変わるので、試行錯誤しながら演じました。そこが自分の中で一番意識した部分でもあるし、監督に『意識してほしい』と言われた部分でもありました」。
――笑子が「おじさん」と呼んでいた中村正男といるときでも、笑っていると思ったら急に真顔になったり……。
「そうですね。笑子はお母さんや友だちには正直な気持ちを打ち明けられなくて、おじさんといるときが本当の自分だと思っていたかもしれませんけど、いつも周りとちょっと壁があるというか、おじさんにも全部はさらけ出せなくて……」。
――笑子が「遠くのほうを見るのが好き」と言っていたのは、彼女の何かを反映していると思います?
「笑子って、普通に言えば“クール”という言葉になってしまいますけど、他の子と着眼点が違うのをすごく感じました。普通の高校生が気にも留めないことをじっくり見たり考えてしまう子で、それが遠くの飛行機だったりするんだと思います。ある意味、大人びている部分でもあると思いました」。
――父親がいなくて母親も水商売で夜中に働いていて、夕ごはんを1人で食べる生活だから、そうなったんですかね?
「いつも1人だから大人びた……というのもあると思います」。
――正男は名前を使い分けて、相手によって職業や境遇の違う人物を装って、それに合わせた笑子が「他人を演じるのは楽しいね」という場面がありました。
「私は普段はどこでもこのままで、あまり変わらないんですけど、役を演じると役としていろいろな感情が出て、駒井蓮としては絶対ない気持ちにもなるので、そこはすごく面白いと思います。そういうものを笑子も感じたのではないかと思います」。
――幽霊部員だった演劇部の練習に参加するようになった笑子の心境を、どう捉えました?
「やっぱり本当の自分をさらけ出せる場所が欲しかったんだと思います。おじさんと出会って、他人を演じているのを見て面白かったんでしょうね。演劇部から『人数が足りない』と誘われたときに、『ここなら自分が楽しいことをやれるかもしれない』と考えた気がします」。
――でも、練習中に先輩に「ウソの自分で演じていたらウソになる」と言われて、感情むき出しの言い争いになりました。
「笑子としてはお芝居はうまくやっていけると思っていたら、壁にぶつかって……。単に演技をしようとしていたら『本当の自分がない』と指摘されて、言い返す中で、逆にどんどん自分を出していったじゃないですか。ぶつかったからこそ気づけた部分があったので、あれは良かったんだと思います」。
――それにしても、優等生っぽかった笑子が急に先輩に敬語も使わず爆発して、驚きました。ああいうことは、蓮さんにもあります?
「全然あります。最初に監督と話したときも『笑子と似てる部分があるね』と言われました。私も『真面目だね』と言われることが多いんですけど、周りに言われたら、その通りにやってしまって、反論が浮かんでも自分で打ち消してしまうところがあって、そこが笑子に似ていると思います。だから私もいろいろ溜まったときは、ケンカになったりします(笑)」。
――蓮さんがケンカをするんだ。
「結構します。家族とも友だちとも」。
――それは意外な……。笑子も友だちの彼氏に「大人でクールで他の奴に染まらない」と誉められて、「それ、私じゃない……」と悲しい顔になってましたね。
「あれは真面目と言われ続けている人にとって、一番腹が立つ言葉だと思うんです。自分はそうではないと思っているのに、決め付けられると苛立ってしまうという感じですね」。
――蓮さん自身に対しても、率直な誉め言葉のつもりで「明るくて頭が良くて真面目で」などと言ってしまいがちですが、実はカチンときてたり?
「ありがたいですけど『違うんだよな……』という部分はあります。でも周りの方に言われることは、実際その通りなんだと思います。笑子もそうだし、私自身もそう。別に反論する必要はないし、自分は変えられない。真面目な自分を認めた上で、どうしていけばいいのか? 笑子は周りに素直な気持ちを言えない自分を変えようとしたし、たぶん誰にでもそういう成長はあるんだと思います」。
演じるより役を生きることを学びました
いい子だけではないところも出せたら……
――夜の校庭で「今日は最悪だったんだから!」と本音を叫び続ける部分は、長回しで撮ったんですか?
「長回しでした。走ってくるところから最後に水たまりに入るところまで全部通しで撮って、3回やったのかな? あそこは一番、体力を使いましたね。体力というか、精神力というか……」。
――当時まだ演技経験も少なかった中で、だいぶ重みを感じたシーンだったのでは?
「重かったですけど、あそこがこの作品で一番、感情をさらけ出せたので、気持ち良い部分もありました。今まで言えなかったことを全部吐き出せて、スッキリしました(笑)」。
――プレッシャーや演技的な迷いはなく?
「あまりなかったです。撮影スケジュールを考えて組み立ててくださって、あそこを撮るまでに、お母さんのこととか友だちのこととか、役としていろいろ溜まっていたので、あまり考えずに、ただそれを吐き出す感じでした」。
――現場で特に演出も入らず?
「監督はすごく心配されて、何度も『これはどうしようか?』って確認に来て『大丈夫かな?』と言ってくださいましたけど、私は裏腹にあまり緊張がなかったです(笑)。ただ
気持ちに身を任せました」。
――水たまりに入ったことはどう捉えました?
「この作品全体で、水がキーワードになっている部分が多いんです。川を舟で渡ったり、雨が降ってきたり……。水に触れると、自分の体温と違うものを感じますよね? それでハッと我に返る瞬間もあって……。あそこの笑子も、高ぶった自分と違う温度を求めるような気持ちだったんだと思います」。
――全編通して、笑子の心情がわかりにくい部分はありませんでした? 母親とケンカして家を飛び出したときに、1人で「行ってきます……」と言ったりもしていましたが……。
「わからないというより、笑子は悪い子でもなければ良い子でもない……と感じました。ケンカも結構しますけど、やっぱりお父さんやお母さんを求めてる。誰かに自分のことを心配してほしがってる。だからいくらケンカしても、ないがしろにはしないんでしょうね」。
――お祭りのシーンとかは普通に楽しかった感じですか?
「すごく楽しかったです! 金魚すくいも本当にやって、私は2匹くらい獲ったと思います。津田さんがすごくお上手で、『こうやるんだよ』と教えてくださいました。おじさんと演劇の練習をしたり、釣りに行ってカレーを食べるシーンも楽しくて……。お母さんとのシーンで寂しい気持ちになった分、ギャップで余計に楽しく感じました」。
――笑子が1人で料理をするシーンでは、包丁やフライパンの使い方が手慣れた感じでした。
「私も上京してから自分で作ることが増えたし、実家でも親の手伝いをしていたので、意外と料理はやってました」。
――撮影に備えて練習する必要もなく?
「しませんでした。皆さんに『できるの?』ってすごく冷やかされましたけど、『できますよ』って腕を見せられました(笑)」。
――普段はどんな料理を作っているんですか?
「野菜炒め、カレーライス、オムライス、煮物……いろいろです。一番得意なのはオムライス。フワッと感を出すのにこだわってます」。
――何か技があるんですか?
「牛乳を入れたりします。『これくらい焼けたらひっくり返す』とかは秒数を計らなくても、見た目と感覚的なものでだいたいわかるようになりました」。
――すごいですね。笑子が自分の好きなものとして「きなこ、自転車、モーツァルト、夜に飛んでる飛行機」を挙げるシーンもありました。その中で、蓮さん自身も好きなものはありますか?
「ちょっと渋いですね……と思いましたけど、私も飛んでる飛行機やきなこや自転車は好きで、当てはまってました(笑)。私はピアノをやっていたので、モーツァルトも好きですね。考えたら笑子と似てます」。
――夜に飛んでる飛行機も好きなんですか?
「はい。私は写真を撮るのが好きで、飛行機が飛んでいるのを見たら、ずっと撮ってます。夜に遠くで点滅しているのも全然撮りますね」。
――2年前に撮影した「名前」ですが、この作品に主演したことで自分が変わった面はありますか?
「高校1年生になった頃、『お芝居って何だろう? 演じるってどういうことだろう?』とずっと悩んでいて、あやふやな状態だったんです。『名前』をやらせていただいて、監督が『芝居とは何か?』みたいなことをたくさん話してくださって、撮影の中でもヒントや助言をいっぱいいただきました。それを聞いて笑子を演じたら、『演じるってこういうことなんだな』という気づきがたくさんありました。この作品で感じたことを大切にして、これからもお芝居をしていきたいとすごく思いました」。
――どんなことが今の糧になってますか?
「監督は『演じるより、役を生きる』ということを大事にしていらっしゃるんです。普段の私として生きていたら気づかず通りすぎることも、お芝居をしていたら着目できるし、自分とまったく違う役でも一度自分を通してやる。『だから、演じることで苦しんだり悩まなくていい』と言われました。現場に行けば、衣裳やメイクやその場の空気から感じるものがたくさんある。『それを大事に役として生きてほしい』というお話は、自分の中でいつも大事にしています」。
――なるほど。そういったお話を聞いても、やっぱり蓮さんは真面目で賢明だと思ってしまいます(笑)。
「笑子もたぶん周りからはいい子だと見られていたんでしょうね。私自身はこれから、いい子だけではないところも出していけたらと思います(笑)」。
駒井蓮(こまい・れん)
生年月日:2000年12月2日(17歳)
出身地:青森県
血液型:O型
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2014年に大塚製薬「ポカリスエット」WebCMでデビュー。これまでの主な出演作はドラマ「キャリア~掟破りの警察署長~」(フジテレビ系)、「先に生まれただけの僕」(日本テレビ系)、「荒神」(NHK BSプレミアム)、映画「セーラー服と機関銃-卒業-」、「心に吹く風」、ショートフィルム「わかれうた」など。「NHK高校講座 国語表現」(NHK Eテレ/火曜14:10~)に出演中。映画「名前」は6月30日(土)より新宿シネマカリテほか全国公開。
詳しい情報は公式HPへ
「名前」
詳しい情報は「名前」公式HPへ
配給:アルゴ・ピクチャーズ
(C)2018映画「名前」製作委員会