PICK UP ACTRESS 松本穂香
PHOTO=mika INTERVIEW=斉藤貴志
話題のドラマ「この世界の片隅に」で
ゴールデンタイムで初のヒロインに
――「この世界の片隅に」のヒロイン・北條すず役は、約3000人のオーディションから選ばれたそうですが、自分では勝因はどんなことだったと思いますか?
「正直、手応えみたいなものはなかったです。ただ最近、共演者の方やスタッフさんに『雰囲気がすずさんっぽい』と言ってもらうことがすごく多いんです。自分ではわからないんですけど、皆さんがイメージするすずさんに近い部分があったのかもしれないなと思います」。
――すずに近いというと……ぼーっとしているところとか(笑)?
「私も『ぼーっとしてる』と言われがちなので(笑)、そういうところかもしれません」。
――そこは自覚もあると?
「確かにちょっとゆっくりなところはあって、『今、ぼーっとしてた?』と言われて、自分で『ぼーっとしてたんだ……』と気づくことはあります(笑)」。
――すずを演じる上で核にしていることはありますか?
「すずさんは周りのみんなのことがすごく好きなんだと思います。あと、自分の気持ちに正直で真っすぐなところは大事にして演じたいと思っています。動きはテキパキすると『ちょっとすずさんらしくないね』と言われます。家事は毎日やっていることだから、バランスは難しいんですけど、歩く速さとかはすずさんのペースを意識しています」。
――すず役に決まってから、物語の舞台となる広島の江波や呉を訪ねたそうですね。
「呉は坂道が多くて、買い物とか用事のたびに行ったり来たりするのは、大変だっただろうなと思いました。でも緑が多くて心地良くて、『すずさんはこの景色を見て生活していたんだな』と思って、私自身も好きな街になりました。劇中ですずさんが景色を眺めて、ふとやさしい気持ちになったりするのと同じ感覚だったと思います。そういう気持ちになってから撮影に入れたのは、すごく大きかったです」。
――あと、普段から下駄を履いて、愛犬の散歩に行っていたとか。
「撮影に入ってから、すずさんが下駄で全速力で走るシーンがあったんですけど、思った以上に走れたので、生かすことができたと思います(笑)。あとは日常のシーンが多いので、お裁縫や包丁を使う練習もしました」。
――そういうことはもともとしていたんですか?
「いえ、全然(笑)。だから、ちょっと危ないときもありました。でも、すずさんもそんなに上手ではなくて、用意されていた食材も雑な切り方をしてありました(笑)」。
――北條家のセットも当時を絶妙に再現しているようですね。
「台所のシーンが多くて、野菜とかを切る場所がないので、床に正座してやっているんですけど、床が何かトゲトゲになっていて、脚がすごく痛いんです。井戸までの道も整備されてなくてガタガタ。そういう不便が多いのが当時そのままかと思うんですけど、お芝居する上ではその不便さがありがたいなと感じています」。
――当時の生活を体感できるということですね。そんな中でも、セットで好きな場所はありますか?
「縁側です。(義姉役の)尾野真千子さんと2人で『ここで寝たいね』と話してました(笑)。ポスターもそこで旦那さんの周作さん(松坂桃李)と撮ったんですけど、気持ちいい場所なんですよ。ああいう感じの縁側はもうあまり見なくなった気がするので、逆に新鮮でした」。
――もんぺを穿いた感想は?
「穿くたびに『当時の人は大変だったんだな』と思います。紐が前と後ろに付いていて、トイレに行くたびに解いて、またキュッキュと結ぶので。動きやすかったり過ごしやすいのはいいんですけど、もんぺを穿いていると、どうやってもオシャレになりません(笑)。『もっとかわいいのを着たかっただろうな』と思います」。
――あの時代の女性ということを踏まえて演じる部分もありますか?
「はい。家族の中でも一番早く起きるとか、旦那様を立てるとか、いくらぼーっとしていても嫁として、ちゃんとしなきゃと思っています。一歩引いて、お義父さん、お義母さんも大事にする。そこはあの時代独特のものなので、意識を持つようにしています」。
――会ったこともない相手の元に嫁ぐことも、わりとあっさり受け入れてましたね。
「嫁いだところで初対面なんですよね(笑)。今の時代だったら、というか私だったら、想像もできません。結婚する前に数回はお会いしておきたいなって思います(笑)。あれも時代特有のものだったんでしょうね。18歳とか19歳で嫁ぐのが当たり前。『子どもを多く産まないといけない』みたいな台詞も出てきます。その感覚は、今の時代の私にはちょっとわからないですね」。
――でしょうね。
「でも、すずさんはあの性格ということもあるし、一度周作さんを小窓の外からのぞき見しているんです。『きれいな顔だったな』って、ちょっと気持ちが高まる場面もあるので、もしかしたら周作さんがカッコ良かったから(笑)、ひと目惚れ的なところもあったかもしれません。それで、あんな素直に嫁いだのかなとも思います」。
話さなくても想いが通じ合う
穏やかな2人は理想の夫婦です
――松坂桃李さんとは、どう夫婦感を出すかとか話したんですか?
「特にそういう話はしていないです。私は『一緒に横にいるだけで何かが通じ合っているのではないか』と勝手に思っています。周作さんは口数が少なくて物静かで、すずさんもそれほど話さない。そんな2人だから言葉は交わさなくても、想いは一緒。なので、松坂さんと『こうしよう』と話したことはないです」。
――では、休憩中とかはどんな話を?
「私のそんなに面白くない話を、年上の松坂さんが『うんうん。それで?』と聞いてくれます。仕事の話ではなくて、『怖い夢を見た』とか『何が食べたい』とか(笑)。松坂さんは私の体調を心配してくださったりするので、お兄ちゃんみたいな感じです」。
――客観的に周作とすずの夫婦を見て、良いなと思うところは?
「穏やかな2人なので、夫婦の時間がゆったり流れているところです。さっき言ったように、しゃべらなくても通じ合っている2人の姿はすごく美しいし、良い関係だなと思います」。
――穂香さんもいつか結婚するなら……。
「あの2人が理想です。でも、なかなかあんなふうにはなれない気がします」。
――今のところ、すずを演じていて悩むことはありませんか?
「毎回、考えながら演じてますけど、これから戦争の色が濃くなっていくと、もっともっと悩むことがいろいろあるんだろうなと思います」。
――戦争についても事前にいろいろ調べたんですか?
「戦争中の暮らしに関する資料を読んだりはしました。私たちの世代は戦争のことを深く知らない人が多いし、戦争というものが本当に起こっていたことさえ、若い人たちは忘れていく時代になりつつあるのかなと思います。この作品をきっかけにちょっとでも考えて、忘れないでほしいですね。私自身、感じたことはたくさんありました。言葉ではなかなか表すことができませんけど、当たり前のことができる幸せを実感します」。
――撮影に入ってから、そういう幸せを感じたこともあります?
「すずさんは水道も通ってない場所に住んでいるので、1日3回、ふたつの桶に井戸の水を汲みに行ってるんですよね。そういうことを撮影でしていたので、家に帰って水道を使うと『水がこんなに出るなんて!』となりました。今は本当に恵まれた時代で、だからこそ鈍くなってしまうところもあると思うので、『水を大事にしよう』という気持ちになります」。
――水を入れた桶ふたつを天秤棒で担いで運ぶのは大変ですか?
「首で棒を支えているので、次の日は首が痛くなっていたりします(笑)」。
――他に穂香さんが日々の生活の中で、普通に生きる幸せを感じるのはどんなときですか?
「家に帰ってきて、飼っている犬が突っ込んでくるときですね(笑)。おかしくなったように私の周りを回り続けるので、癒されます。あとは、おいしいものを食べたり、友だちと会ったりが、当たり前にできていることに幸せを感じます」。
――今回に限らず、役作りをする際に重視することは何でしょう?
「好きになることが大事だと思います。役も作品もひとつひとつのシーンも、好きになればなるほど心がこもって、素敵なものになる気がします」。
――演じた役を引きずることも?
「すごくあります。たとえば片想いをしている役だと、作品が終わってもその相手の役のことを『まだ好きだな』という気持ちになったりします。友だち役でも『あの世界に(役として)いた人たちにはもう会えないんだ……』って、いつも寂しくなるんです。今回のドラマが終わったら、どうなるんだろう(笑)?」。
――より深く作品に関わってますからね。ゴールデンタイムの連ドラでは初主役の上に話題作でもあるので、プレッシャーもありますか?
「やっぱりあります。だけど、演出の土井(裕泰)さんとか、朝ドラ(ひよっこ)でもお世話になった脚本の岡田(惠和)さんとか、信頼できる大好きな方たちに支えていただいているので、みなさんのことを信じて、私もみなさんからの期待に応えられるように、今できる一生懸命を出すのが一番じゃないかと思います」。
――主役は当然出番も多くて、1日の撮影を終えたら結構ヘトヘトかと思いますが、家に帰ってからすることはありますか?
「次の日の準備で台本を読んだりはしますが、特別なことはしていません」。
――気分転換に何かしたりは?
「音楽を聴きながら帰ったりはします。最近だとクリープハイプさんとか、SHISHAMOさんとかですね」。
――これからますます暑くなりますが、夏バテ対策はしてます?
「ごはんをちゃんと食べるようにしています。夏の撮影は大変ですけど、暑いのはみんな同じだし、大丈夫だと思います」。
――周作は「何があってもへこたれん人」ということですずを嫁にしました。穂香さんもへこたれないタイプですか?
「落ち込むときはあっても、どこかで『大丈夫でしょう。何かあっても死なない』と思っているところはあります(笑)。おいしいものを食べて、ぐっすり寝たら回復するのも、すずさんと似ているように思います」。
――「おいしいもの」というと、たとえば?
「最近は干しイモが好きです(笑)。特にきっかけはないんですけど」。
――でも、やっぱり戦時中のドラマに打ち込んでいるせいか、質素なものになってますね。
松本穂香(まつもと・ほのか)
生年月日:1997年2月5日(21歳)
出身地:大阪府
血液型:O型
【CHECK IT】
2015年1月に短編映画「MY NAME」で女優デビュー。主な出演作はドラマ「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」(関西テレビ・フジテレビ系)、「黒い十人の女」(読売テレビ・日本テレビ系)、「ひよっこ」(NHK)、映画「青空エール」、「にがくてあまい」、「恋は雨上がりのように」、「世界でいちばん長い写真」など。au「意識高すぎ!高杉くん」のCMがオンエア中。ドラマ「この世界の片隅に」(TBS系/日曜21:00~)で主演を務める。10月公開の映画「あの頃、君を追いかけた」に出演。
詳しい情報は公式HPへ
松本穂香 公式Twitter
公式Instagram 「週刊 松本穂香」
「この世界の片隅に」
詳しい情報は公式HPへ