PICK UP ACTRESS 大野いと

PICK UP ACTRESS 大野いと

PHOTO=河野英喜 HAIR&MAKE=RYO(ROI)
STYLING=森宗大輔  INTERVIEW=斉藤貴志

 
 

日本とベトナムを結ぶ映画
「クジラの島の忘れもの」に主演

 
 

――大学を卒業したんですよね。

「はい。卒業することができました」。

――仕事と両立させながら。

「頑張って、友だちの力も借りながら」。

――しんどい時期もありました?

「はい。ちょうど『クジラの島の忘れもの』の撮影と大学のテストがカブってしまって、大変でした」。

――ベトナムや沖縄でのロケもあっただけに?

「そうですね。でも、ここが正念場だと思って、沖縄でもレポートを書いたりしてました」。

――睡眠時間を削るようなことも?

「ありました。この撮影前も台本を覚えなきゃいけないし、テスト勉強もしなきゃいけない。家にいると寝ちゃうので、目を覚ますために夜中まで開いている場所を探して、ファミレスでひたすらやってました」。

――そういう苦労はあっても、やっぱり大学に通ったことは良かったですか?

「良かったことのほうが多かったです。いろいろな授業を聞けたことが、私にとって収穫でした。心理学とか1人の作家についての研究とか、歌舞伎や日本の演劇の歴史も学べましたから」。


――「クジラの島の忘れもの」は日本とベトナムの国交樹立45周年記念映画となっています。いとさんはベトナムに関心はありました?

「母が『一番行きたい国はベトナム』と話していたんです。だから、『えーっ! お母さんより先にベトナムに行っちゃうよ』みたいな気持ちでした(笑)」。

――いとさん自身が惹かれるものは?

「かわいい雑貨がいっぱいあると聞いて、気になってました。実際ありましたね。ココナッツの実を加工して作ったお皿をたくさん買いました」。


――向こうでカエルを食べたりもしたそうですね。

「はい。食べました。ベトナムではカエルを食べることは知らなかったんですけど」。

――映画を観ていても、街に活気を感じました。

「そうですね。日本だと街にはないような屋台もたくさんありますし、バイクも多くて。日本みたいに信号がきっちり赤になったら渡る文化が全然なくて、自由でいい意味で雑多な街だと感じました」。

――日本人が行くと、道を渡れないとも聞きます。

「堂々と渡れば渡れるんですけど、オドオドしていると渡れないんです。だから、堂々と歩きました(笑)」。

――沖縄には前にも行ったことがあるんですよね?

「お仕事で何回か行かせてもらいました。中3のときに初めてのCM撮影で行ったのが、今回と同じ座間味島でした。地元の福岡から東京に行くことはあっても、他の県に遠出したのは初めてで、しかも沖縄は観光スポットとして人気じゃないですか。『行けるの?』ってうれしかったし、良い思い出になって、今回行ったら島の人たちも私のことを覚えてくださってました」。

――演じた木元愛美も、阪神淡路大震災で亡くなった母親と12年前に座間味に来ていて、同じ民宿に泊まる設定だから、ちょっと重なりますね。

「『また座間味島に行けるの?』って、気持ちがシンクロしました」。

――クジラも実際に見られたんですか?

「見ました。でもジャンプは見られなくて、尻尾とかがちょっと見えたくらいでした」。


――以前の取材では、この映画では「なぜか力を抜いてできた」とのことでしたが、確かに自然と役に寄り添っている感じがしました。

「お芝居のことをいろいろ考えてきて、力を入れすぎずにやることを目標にしていたんですが、そうできたきっかけがこの映画でした。時間がゆったり流れる沖縄の力も大きかったと思います」。

――演じ方も変えたんですか?

「事前に役について考えるのは変わりません。ただ、以前はたとえば台詞の強弱とかを考えることもあったのを、あえて台詞をいろいろ深読みしないようにしました。シーンごとには深読みをするんです。でも、ひとつひとつの台詞について『ここはこういう気持ちだから、こう言う』とか決めつけないで、どちらかというと前後の状況を考えるようになりました。それで、現場では気持ちの流れにままにやりました」。

 
 

自分の中では悩むことが多くて
明るさを発散できる人になれたら

 
 

――愛美は震災で母親を亡くして心に傷を負って、伏目がちに話す感じで、「自分が何のために生かされてるのかわからなくなります」と言ってましたが、彼女のこれまでの人生がうっすら滲むような演技でした。

「そこはちゃんと出さないといけないところだったので、自分なりに震災や施設のことも調べました。愛美が背負っているものが溢れ出すシーンでは、一番重要になるので。お母さんを亡くして、友だちも亡くしているだろうし、自分だけ生き残ったことがコンプレックスというか悩みというか……」。

――実際の被災者の方でも、「生き残ってしまった」と罪悪感のようなものを持ってしまうことはあるようです。

「施設に行っても、同じように辛い子たちがいっぱいいて、自分の心があまり開けない。そういうことがあったと考えて、私は演じました。それが、最後に宿で『ちゃんと生きていいんだ。生きなくちゃいけないんだ』って強くなるところにも、響いてきたかなと思います」。

――愛美は「素敵な未来なんて宝くじに当たるようなもの」と諦めの気持ちも抱いていましたが、いとさんはたぶん小さい頃に思い描いた以上の素敵な未来が待っていたでしょうから、心情をつかむのが難しかったりも?

「どうでしょうか(笑)。他人が見るのと、また違いますからね。自分の中ではやっぱり悩むことが多いです」。


――愛美みたいに「変わりたい」と思うことも?

「はい、あります。誰しも思うことじゃないですか? 『こういう人になりたい』というのは、すごくたくさんあります。笑顔が多い人、他の人を包み込むことができる人……。そういう人がいると現場もすごく明るくなるし、自分でそういうものを放てる人になりたいです。それで、もうちょっと明るく生きたいです」。

――今も暗いわけではないですよね(笑)?

「そうですかね? そう見えていたらいいんですけど(笑)」。

――愛美がベトナム人のコア(森崎ウィン)に「僕のふるさとを見てほしい」と言われてベトナムを訪れたように、「見たことのない世界を見たい」気持ちも?

「ありますね。中学生で東京に来るようになって、見たことのない景色もたくさん見ましたけど、私の思考や感情と違うものがある景色を見てみたいです」。

――劇中で特に緊張を強いられたシーンはありました?

「クライマックスの民宿で宿帳を見るシーンは緊張しました。ちゃんと気持ちを作れるか、愛美になれるか……と思って」。

――外国人との交際を反対する叔母さんに涙で訴える場面は?

「あそこのほうが難しかったですね。宿帳のところは自分の気持ちだけでできましたけど、叔母さんとのシーンは相手の気持ちも汲み取ってお芝居しながら、初めて強く自己主張をしないといけなかったので」。

――コアとの恋は自然に惹かれ合う感じで良かったです。

「自分の気になっている人が、自分のためにいろいろしてくれるのは、女性として幸せなことだなと思いました」。


――フェリーで彼に「言いたいことがあるんです」と気持ちを伝えたところは、愛美が吹っ切れた感じでした。

「そこはト書きに何も書かれてなくて、泣かなくてもいい感じだったんですけど、監督に『泣いてほしい』と言われて『エーッ!?』となりました(笑)。でも、力を入れずにそのときの気持ちをぶつけられたから、自然にできたかなと思います」。

――いとさんも「変わりたい」という話がありましたが、何か新たに始めたことも?

「最近、乗馬をして楽しかったので、これからも続けてやっていきたいです。もともと馬と触れ合うのは好きでした。かわいいし、馬は人の気持ちがわかると言われますけど、触れ合うと本当にわかるんです。自分がオドオドしていると馬もオドオドしちゃうし、自分の気持ちがスッとなっていれば、馬もスッとなる。人間以上に人間のことがわかるのかな? そういうところで馬を好きになりました」。

――乗馬自体もいい感じでできたんですか?

「いえ、1回目は本当に緊張して、指導員の人に『あなたは叫ぶタイプね』と言われました(笑)。馬がちょっと駆け足するたびに『うわーーッ!!』と叫んでいたので。でも、楽しかったです」。

――映画の劇中では、チラッと料理する背中を見せたシーンもありましたが、料理はするんでしたっけ?

「簡単なものしか作れません。野菜具だくさんおみそ汁とか、シャケを焼いたりとか(笑)。そっちも磨きたいですね。女子力を上げて『特技は料理』とか言ってみたいです」。


 


 
 

大野いと(おおの・いと)

生年月日:1995年7月2日(22歳)
出身地:福岡県
血液型:O型

【CHECK IT】
中1のときに映画ロケを見学中にスカウト。2011年4月公開の映画「高校デビュー」のヒロイン役で女優デビュー。これまでの主な出演作は映画「愛を歌うより俺に溺れろ!」、「ライヴ」、「天の茶助」、「忘れ雪」、「雨にゆれる女」、ドラマ「黒の女教師」(TBS系)、「山田くんと7人の魔女」(フジテレビ系)、「馬子先輩の言う通り」(フジテレビほか)、「新宿セブン」(テレビ東京系、ほか)、舞台「春のめざめ」など。主演映画「クジラの島の忘れもの」は5月12日(土)より渋谷シネパレス他全国公開。
詳しい情報は公式HP
 

「クジラの島の忘れもの」

配給:エムエフピクチャーズ

詳しい情報は「クジラの島の忘れもの」公式HP
 

 

 

 

(C)クジラの島の忘れもの製作委員会
 

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