PICK UP ACTRESS 大野いと
PHOTO=松下茜 INTERVIEW=斉藤貴志
日本一の清流が舞台の映画「高津川」に
大阪から地元に帰ってきた役で出演
――日本一の清流・高津川の流域に暮らす人々を描いた映画「高津川」に出演されました。風景も印象に残る作品ですね。
「高津川は見たことないくらい透き通っていて、本当にきれいでした。アユを釣っている人たちも生で見て、物語の世界そのものだなと思いました」。
――いとさんが演じた七海は、アユを食べて「マジで他では食べられない!」と言ってました。
「本当においしかったです。何度も食べさせていただいて、お弁当にも入れてくださったんですけど、生臭さもなくて、今まで食べたアユとはまた全然違いましたね」。
――七海は牧場を経営する主人公の斎藤学(甲本雅裕)の娘。
「明るい女の子の役です」。
――面白いキャラクターですが、入りやすかったですか?
「撮影に入る前は役作りでいろいろ複雑に考えてしまって、全然うまくできませんでした」。
――というと、どんなことを考えたんですか?
「七海が地元から都会に出ないことに、なかなか共感できなくて。私自身は福岡で生まれて、昔から都会に行きたい想いがあったので、七海の考え方を『どういうことなんだろう?』とすごく疑問を感じてしまって……。そこを解消するのに時間がかかりました」。
――でも結局、解消されたんですよね?
「町の人たちと触れ合ったり、お散歩して川を見たり、神社にお参りに行って奉納神楽を見たりするうちに、地元の空気を吸って自然に七海になれたように思います」。
――七海が馴染んできたものに、いとさんも馴染んで同化した感じ?
「そうですね。あと、監督が『七海は本当に明るい子なので深いことは考えなくていい』と言ってくださったのが、大きかったです」。
――こういう地方モノに出てくる若者は都会に出たがっているか、都会で挫折して帰ってきたパターンが多いですが、七海は大阪の学校に通った後、自ら地元に戻ってきたんですよね。
「家族と一緒にいる幸せや地元の良さをしっかりわかっていたからこそ、『ここがいい』と思えたんでしょうね。そこになかなか気づけない人も出てきましたけど、七海はお母さんが亡くなってからお父さんに育てられて、愛される喜びをちゃんと感じることができる子なのかなと思います」。
――あと、七海はつまみ食いして「こんなおいしいものを毎日食べられるんよ」と言ってたり、食いしん坊ゆえの面もあったみたいですね(笑)。
「そうですね。家に帰ってきたら、おばあちゃんがあんなにたくさん料理を作ってくれていたのは、私もハーッとなって、すごく羨ましかったです(笑)」。
――七海の台詞にあった「大阪の学校に行かせてもらって、地元の良さがわかったかもしれん」というのは、いとさんも上京して感じたこと?
「それはありました。スーパーに行くと『トマトのサイズが福岡のほうがひと回り大きいな』とか(笑)。地元では新鮮な魚も食べられて、食では良いものに恵まれていたと思います。あと、ご近所同士の付き合いが深いのも『高津川』と一緒でした」。
――あの町にいとさんの地元と重なる部分があったわけですか?
「多かったです。私の地元は福岡の中でも田舎で、子どもが本当に少なくなっていて。同級生もほとんど福岡市や北九州市の小倉に出て行ってました」。
――地方共通の問題があったわけですね。七海を演じる上で、他に大切にしたことはありました?
「私は末っ子ですけど、七海は長女で弟がいて、世話好きな面は意識しました。弟を守ってあげたいとか甘やかしたいとか、お姉さんらしさを見せて、長女や長男の人の特徴を探って、落ち着きを出すようにしたり」。
――神楽の練習に行かない弟の竜也(石川雷蔵)に「本当のことを言ってみ」とか、明るい調子の裏で見守って、導くようなこともしていました。
「私も下に弟か妹が欲しくて、お世話を焼いて『こういうコーディネイトがいいよ』とか言いたかったんです。映画の中で、自分が引っ張る楽しさをちょっと感じられました。雷蔵くんは撮休の日も神楽の練習に行っていて、その努力を知っていたから、竜也が舞うシーンはカッコ良くて印象に残っています」。
――神楽を見つめる七海は、本当に姉の顔になっていました。
「リアルに感動していたのが、そのまま映っています」。
もがき続けても最後に辿り着くのは
自分の育った場所だと感じました
――クライマックスには、閉校する小学校に卒業生たちが各地から集まって、最後の運動会をするシーンがありました。
「あれは楽しかったです。たくさんのエキストラの方が協力してくださって、皆さん本気なんですよ(笑)。玉入れとか綱引きとか『絶対負けない!』みたいな感じで競い合っていて。私もリレーや障害物競走に出ました」。
――いとさんも体育祭とかで盛り上がるタイプだったんですか?
「直前まではやる気なくて、いざ始まるとすごく燃えちゃうタイプでした(笑)」。
――七海はおばあさんと料理の話をしていたとき、「私はお腹がすいたら悲しそうな顔をして、旦那にごはんを作ってもらうタイプ」と言ってました(笑)。
「そこはすごく共感します(笑)。料理上手な旦那さんで、家に帰ってきてテリーヌとかあったら、めっちゃテンション上がると思います(笑)」。
――自分では料理はしないんですか?
「しますけど、微妙です(笑)。たぶんヘタだと思います。一番腕前が出るお味噌汁とか、『おいしい』とは言ってもらえても、自分で飲むとイマイチなので。ぜひおいしいすまし汁を旦那さんに作ってもらいたいです(笑)」。
――いとさんはどんなお母さんになるんですかね?
「家事は1人で全部はできないので、家族と協力してやりたいです(笑)。周りでママが増えましたけど、子どもが好きなことを一緒に見つけてあげるお母さんになりたい……というのはあります」。
――「高津川」の冒頭、主演の甲本雅裕さんのナレーションで「毎日を何気なく過ごしていると足元にある小さな幸せに気づかないものだ」という言葉が流れました。いとさんにとって、そういう「小さな幸せ」だと思えるものはありますか?
「舞台挨拶とかでファンの方と対面すると、そういうことを感じます。『応援してくださる方がこんなにいるんだ』って温かい気持ちになって……。それは“小さな”というわけではないですが、そういうときはたとえばお水を飲んでも、ものすごくおいしいと思えたりします。あと、友だちと電話したり、スーパーで好きなものを買えたり、ちょっとしたことのひとつひとつに『ありがたいな』と気づきます」。
――スーパーで何を買ったときに幸せを感じるんですか?
「ヨーグルトです。78円のではなく140円くらいのを買うと、すごく贅沢な気持ちになれます(笑)。私も食べることが好きなので、食に幸せを感じます」。
――他にはどんな食べ物で?
「最近だと、友だちが作ってくれたキムチ鍋がおいしくて。やっぱり手料理はいいですね。『高津川』のおばあちゃんの料理も、実際に牧場の方が作ってくれたものだったんです。すごくおいしくて幸せでした」。
――完成した「高津川」を観て、改めて感じたことはありましたか?
「この映画は永遠だなと思いました」。
――自分の中で?
「というか、日本でも世界でも観続けられてほしいですし、人がもがいて生きていって、最後に辿り着く場所は絶対ここなんです。そう私は断言できるというか……」。
――「ここ」というのは……?
「『高津川』のような場所。映画が表現している場所。何て言ったらいいのかわかりませんけど……。田口浩正さんが演じた弁護士が、東京に出ていたけど最後に地元に心を許すシーンがあるんですね。田舎の地元を嫌がって、『大きいことをしたい』と出て行く人は多いだろうし、私自身、『知らない世界をもっと見てみたい』と思っていました。でも、最後に戻るのは自分が育った場所。それは永遠に変わらないと感じました。地元に帰らないとしても、最後はそこを思い出す。もがき続ける中で、ちょっとした幸せに気づいて、結局はそこに辿り着きたくなると思うんです。だから、この映画はなくならない。永遠だと私は感じています。演じているときはあまり感じなかったことですけど、完成して観終わって、すごくそう思いました」。
――では最後に、4月から新年度ということで、いとさんも何か始めたりはしますか?
「やりたいことはたくさんありますけど、やっぱり料理を極めたいです」。
――テリーヌを自分で作れるように?
「テリーヌもだし、韓国料理を家で作れるようになりたいです。中華料理はわりと作りやすいですけど、韓国料理を作る人は少ないじゃないですか。だからこそトライして、ナムルとか作ってみたいです」。
大野いと(おおの・いと)
生年月日:1995年7月2日(24歳)
出身地:福岡県
血液型:O型
【CHECK IT】
中1のときに映画ロケを見学中にスカウト。2011年4月公開の映画「高校デビュー」のヒロイン役で女優デビュー。主な出演作は映画「愛と誠」、「忘れ雪」、「雨にゆれる女」、「クジラの島の忘れもの」、「TANIZAKI TRIBUTE 悪魔」、「新卒ポモドーロ」、ドラマ「黒の女教師」(TBS系)、「山田くんと7人の魔女」(フジテレビ系)、「馬子先輩の言う通り」(フジテレビほか)、「新宿セブン」(テレビ東京系、ほか)、舞台「春のめざめ」など。中国地方で先行公開された映画「高津川」が近日公開予定。
詳しい情報は公式HPへ
「高津川」
詳しい情報は「高津川」公式サイトへ