PICK UP ACTRESS 桜井日奈子
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
「殺さない彼と死なない彼女」でW主演
自分が嫌いで死にたがりな女子高生の役
――「殺さない彼と死なない彼女」で演じた鹿野は、死にたがりでリストカットを繰り返す女子高生。それでいてゴミ箱のハチの死骸を埋めに行ったりしてますが、彼女の心情や思考回路は理解できました?
「はい。すごく濃いキャラクターで『まったく寄り添えないんじゃない?』と聞かれたりもしますけど、そんなことはなくて……。鹿野は寂しがり屋だけど、直接的に『寂しい』とは言えない。手首をちょっと切っちゃったりして、うまく感情を表現できない。そこは共感できました」。
――ということは、日奈子さんも寂しいときがあると?
「ありますよ(笑)。そういうときは、母親に電話してます」。
――鹿野が「死にたい」と言ってるのは本気なんですかね?
「本当に死にたいわけではなくて、そういうことを言って気を晴らしているというか、自分を保っているのかなと思います。自分は『死にたい』と言ってるのに、授業で『世界では3秒に1人が死んでいる』と聞いただけでポロポロ泣いちゃったり、ハチをちゃんと埋葬してあげたり、本当は心やさしい女の子なんですよね。演じるときに、ネガティブなキャラクターとはあまり思いませんでした」。
――周りからは「メンヘラ」とか「情緒不安定」と言われてますが、そういう括りではないと。
「そうではないような気がします」。
――日奈子さんは「死にたい」と思ったことはないですよね?
「死にたくなるほど恥ずかしかったり、悔しかったりしたことはあります。スーパーで母と買い物をしていたとき、全然知らない人に『お母さん』と言っちゃったとか(笑)、そういうレベルですけど、一瞬死にたくなりますよね(笑)」。
――この作品は原作の4コママンガに忠実で、スタートからゴールに向かって走るというより、場面ごとにダッシュを繰り返しているような印象がありました。
「『4コマのテンポ感だから伝わる面白さ』みたいなものがあるじゃないですか。それを実写化したときにどう表現できるか、悩むところではありました。でも、小坂と鹿野のやり取りのいびつさで、そのテンポ感をちゃんと表現できたと思います」。
――間宮祥太朗さんが演じた小坂は、何かと言うと「殺すぞ」と口にして、鹿野と「俺が殺してやるよ」「できもしないことを聞かされると余計に死にたくなる」といった会話をしてました。
「小林(啓一)監督は『OK! 良いのが撮れた。でも、他のも見てみたい!』という方で(笑)、長回しの中で何度もリテイクするのが当たり前な感じだったんですね。それで自分たちもいろいろなやり方を試せたし、カットがかかったあと、みんなでモニターを見る時間もちゃんとあったので、ありがたい現場でした」。
――その成果か、つい笑ってしまう面白い場面が多かったです。小坂が持ってるイカ焼きに鹿野が猫のようにかぶり付くところとか。
「あれは奇跡的なシーンだったんです(笑)。本当はガブッとひと口かじっていくはずだったのが、ラッキーでイカ焼きをまるまる口にくわえた状態になって、『これはいい!』となりました。あそこは唯一リテイクがなかったように思います。アドリブを入れても『面白く撮れちゃったからOK』ということは多かったです」。
――アドリブも結構あったんですか?
「はい。『アドリブもいいよ』と言ってもらえる現場だったので。神社で2人で肉まんを食べていたときに、小坂が鹿野に付けられたヘアピンをパッと取って遠くに投げる振りをしたのも、アドリブでした。鹿野が走り去って校門を飛び越えるシーンも、ああいう予定ではなかったんです」。
――そうなんですか? あそこも「うわーっ!」と走り出した鹿野が暴走した感じで、面白かったですけど。
「本当は門が開いてるはずだったんです。でも、走っていったら開いてなかったから、飛び越えました(笑)。それが鹿野っぽいかなと思ったりもしたので」。
――運動神経の良い日奈子さんならではですね。
「バスケをやっていて良かったです。門を飛び越えるのは全然苦ではなくて、『パンツが見えなければいいな』と思ったくらいでした(笑)」。
暴力的な言葉の奥にやさしさを感じて
演じていても居心地が良かったです
――ハチを花壇に埋めたときは、鹿野はブツブツ言いながらやってました。
「花壇をまたいで入ろうとしたら、普通に行けたところですね(笑)。あそこも台本に台詞は書いてなくて、監督に『ブツブツ言ってるほうが鹿野っぽい』と言われて、その場で言ってみました」。
――ストーリーは後半に急展開を迎えますが、鹿野はあそこで小坂がアイスを持ってきてくれたときから、彼が気になってはいたんですかね?
「鹿野はたぶん、ハチを埋めるのを面白がってくれる人と出会ったことがなくて、気持ち悪がられるのが当たり前だったんですよね。だから小坂には『好き』というより、『なんで?』という戸惑いのほうが大きかったのかなと思います」。
――では、鹿野の心が大きく動いたと思ったとか、日奈子さん自身に響いたシーンはありますか?
「シーン的には花火のところが私は好きですけど、2人でいるときはいつも、うわべ感がまったくないんですよね。『死ね』とか『殺すぞ』とか暴力的な言葉の奥に、ちゃんとやさしさがあって、それを感じられるから居心地がいい。『どんな自分でも受け入れてくれる』という共通の認識が2人にはあって、演じていても気持ち良かったです。台詞はトゲトゲしくても『この感じ、何かいいな』みたいな」。
――花火のところでも、約束をして「忘れたら死ぬぞ」と言ってたり。
「押しつけがましいラブな要素はあまりない作品ですけど、花火のところでは小坂が鹿野の手を引いて、しかもちょっと照れながらで、キュンときましたね(笑)」。
――先生との面談中に職員室から飛び出した鹿野が、小坂の背中に体当たりをしたのは、彼女の感情表現なんですかね?
「ワーッとなっちゃったときに頼れる相手が、小坂しかいなかったんですよね。でも、大切な人はそんなに要らなくて、1人いれば十分というお話でもあって、それは恋人とか友だちというカテゴリーに分類できない関係なのかと思います」。
――2人だけが通じ合える関係性なんでしょうね。
「でも、あのシーンを撮ったときは、間宮さんがなかなか背面を取らせてくれなくて、『カバディみたいだな』と思いました(笑)。全力で背中を取ろうとして、ディフェンスチックな動きになって、あれもいびつですよね(笑)」。
――難しかったシーンもありますか?
「糸電話のところが難しかったんです。『間接キスするの? エロっ!』みたいなやり取りがうまくできなくて。それがうまいスタッフさんがいて、ちょっとやってもらうと、監督が『そう。これだよ』と言うんです。でも、私がやると『ちょっと違うんだよな』となって(笑)、すっごい悔しかったです」。
――小林監督は日奈子さんに関して「殻を破った作品になるんじゃないか」とコメントしてましたが、そういう感覚はありましたか?
「自分で『殻を破った』と言ったら、ちょっとカッコ悪いかな(笑)。でも、今まで挑戦したことのないキャラクターでしたし、監督は私のパブリックイメージから『一番遠い役』とおっしゃっていて……。そんな役を、観てくださった方に『いいね』と思ってもらえたら、嬉しいです」。
――今までのマンガ原作モノとはだいぶ違いました?
「今までは本当に普通の女子高生で、キラキラしたりキャピキャピしてましたけど、そういう役より今回の鹿野のほうが、私にはしっくりきたように思います。あまり無理してない感じ? 演じていて気持ち良かったです」。
――監督が言われたように、パブリックイメージとは一番遠くありつつ、やっぱり日奈子さんも寂しがり屋だから(笑)?
「ハハハ(笑)。メンヘラとかではないですけど、それはあるかもしれません」。
――ところで、夏の取材のときは「韓国旅行に行く」と話してましたが、行ったんですか?
「行ってないんですよ~。間に合わなかった……。でも、ハロウィンシーズンにディズニーランドに行きました。ドナルドダッグのコスプレをして」。
――インスタに上がってましたね。年内のお楽しみは、あと何がありますか?
「今年も終わっちゃうんですね。早かったな……。何も予定はしてませんけど、お酒を飲みたいです」。
――おっ、大人ですね。
「この前、『内村文化祭』でご一緒したニッチェさんとごはんに行って、すごく楽しかったんです。あまり芸人さんとお食事する機会はないんですけど、この出会いをきっかけに、ニッチェさんとお酒を飲みながら、もっとお話したいと思っています」。
――日奈子さんは成人して2年ですけど、お酒は意外と強そうですね。
「そうなんです。強いです(笑)」。
桜井日奈子(さくらい・ひなこ)
生年月日:1997年4月2日(22歳)
出身地:岡山県
血液型:O型
【CHECK IT】
2014年に「岡山美少女・美人コンテスト」にて美少女グランプリを受賞。2015年に配信の「LINE MUSIC」ウェブCMをきっかけに“岡山の奇跡”として全国的に注目される。2016年に舞台「それいゆ」で女優デビュー。同年に「そして、誰もいなくなった」(日本テレビ系)でドラマデビュー。主な出演作はドラマ「THE LAST COP/ラストコップ」(日本テレビ系)、「僕の初恋をキミに捧ぐ」(テレビ朝日系)、「みかづき」(NHK)、映画「ママレード・ボーイ」、「ういらぶ。」など。ドラマ「ヤヌスの鏡」(フジテレビ/月曜24:55~)に出演中。「沼にハマってきいてみた」(NHK Eテレ/月曜~水曜18:55~。桜井日奈子は月曜日に出演)でレギュラーMCを担当。コスモ石油のCMがオンエア中。映画「殺さない彼と死なない彼女」は11月15日(金)より全国ロードショー。
詳しい情報は公式HPへ
「殺さない彼と死なない彼女」
配給:KADOKAWA/ポニーキャニオン
詳しい情報は「殺さない彼と死なない彼女」公式HPへ
©2019映画『殺さない彼と死なない彼女』製作委員会