PICK UP ACTRESS 清水くるみ
PHOTO=小澤太一 INTERVIEW=斉藤貴志
青春群像映画「青の帰り道」に出演
家族との関係に悩んで上京する役
――「青の帰り道」は、くるみさんが演じるキリが校舎の屋上で写真を撮るシーンから始まります。くるみさん自身も写真が趣味ということなので、当て書き(演者に合わせた脚本)だったのでしょうか?
「最初に台本を読んだときからカメラをやっている女の子だったので、当て書きではなかったと思います」。
――くるみさんはいつから写真を?
「高校生のときに写真部に入って始めました。卒業アルバムに1ページでも多く写りたくて、何か部活に入っておこうと思い、一番楽そうな写真部にしたんです(笑)。暗室で現像するのがすごく楽しくて、フィルムカメラにハマりました」。
――この映画は群馬の高校の同級生だった7人の人生模様を描く群像劇で、キリは歌手を夢見るカナ(真野恵里菜)と共に上京して、カナのマネージャーとなる役。心情とかでリアルに感じる部分はありました?
「キリのコンプレックスというか、カナが陽なら自分は陰という部分には共感しました。私もそういう気持ちを抱えていた時期はあったので、等身大といえば等身大。演じやすかったです」。
――でも、実際のくるみさんはカナのように表に出る側ですよね。しかも中学生の頃から、この世界で活躍していて。
「職業的にはそうかもしれませんけど、その中でも陰と陽はありますし、それで思い悩んだこともあります。だから、キリの感情がわからないことはなかったです」。
――上京して「理想と現実がかけ離れている」と感じたことも?
「全然あります。上京に関しては、私は名古屋にいたので東京とそんなに違いはなくて、キリのように“東京デビュー”という感じではなかったんですけど、小さい話で言えば、高いお寿司を食べたくても行けるのは回転寿司とか(笑)、そういうのはたくさんありました。仕事においても基本そうでしたね。『あの子はあれができるけど、私にはできない』とか」。
――キリたちのように地元でツルんでいた仲間はいました?
「私は女子校だったこともあって、共学の青春みたいなものはあまり味わってないです。学校の友だちより、この『青の帰り道』や昔やった学園モノで共演したみんなと地方ロケとかをしたときのほうが、青春を感じました」。
――キリは母親をはじめ家族からの疎外感を抱えていて、それが上京した大きな理由のようでしたが、掴みやすい人物像でした?
「そうですね。こういう静かな役を演じさせていただくことが多いので、捉えやすかったです。その中でも、特にキリは闇が深かったと思います」。
――あまり自己主張しないけど、大学をやめてまでカナのマネージャーになりました。
「自分自身が輝くのではなく、他人が輝くことに徹する。そういうところがキリにはあるんです。それが果たして『本当に自分のやりたいことなのかな?』とも思いますけど、とにかく東京に出て、家族から離れたかったんでしょうね。そこでカナが『歌手になる』と言うなら、『じゃあ、私がマネージメントする』みたいになったんだと思います。映画の中でも言ってましたけど、カナとは腐れ縁でもありますし。良い意味でも、悪い意味でも」。
――映画の中ではっきり描かれてませんでしたけど、キリは本当はカメラマンになりたかったんですかね?
「それはまったくなかったと思います。カナと同等に立ちたいけど、立てないからマネージメントをした感じで、カメラマンも本気で目指していたわけではないでしょう。趣味で撮ってはいたけど、そのために東京に出たのではないでしょうね」。
――演じる上で一番考えたのは、やっぱり母親に対する気持ちですか?
「それはすごく考えました。たぶん母親はキリが好きではないタイプの人間だけど、血はつながっているから、切っても切れない関係じゃないですか。東京で失敗しても、帰るところは実家しかない。すごくうざい母親だけど、自分のことを想ってくれていることも薄々わかっているはず。その気持ちと向き合いたくない若さもあるんだろうなと思いました。最後のほうでは、知らなかった昔の話を聞いたので、若かった自分の反動も出せたらいいなと意識して演じました」。
――夜のアーケードで母親と2人で話すシーンは、キリのヤマ場でした。
「そうですね。お母さん役の工藤夕貴さんはもともと素晴らしい女優さんだと思っていたので、ご一緒させていただけてうれしかったですし、どういうお芝居をされるのか、どう受けたらいいのか、緊張しました。何となく『こういう感じで来るかな?』と想像していても、工藤さんはいつも想像を遥かに越えて、『そう来るんだ!』みたいになるんです。お芝居をしていて、そこまでの衝撃を受けることはなかなかないので、そういう意味では、あのシーンはとても楽しかったです」。
――それは女優さんならではの感覚かと思いますが、工藤さんの演技にどんな衝撃があったんですか?
「たとえば私がちょっとでも動きを変えたら、必ず対応して、さらに上を越えていくような返し方をされるんです。こっちが何をしても全然変えない役者さんもいますが、それはそれでアリだと思います。でも工藤さんはすごく自由な方で、どんどん変えてくるから面白くて、私も楽しく演じさせていただけました」。
コンプレックスは昔の私にもありました
来年は感情を爆発させる役も演じられたら
――一方で、尽くしてきたカナに「キリといるとみんな不幸になる」と言われたシーンは、重苦しかったです。
「あそこのほうが気持ち的にとてもへヴィでした。アーケードの場面は外だったので、気分も開放的な感じでお芝居できましたけど、あのカナとのシーンは夏にクーラーがない部屋で、閉鎖された空間での撮影だったので、環境的にも少し大変でした」。
――全体的に演じ方に悩むことはなかったですか?
「悩みました。先ほど出たお母さんとのシーンも、工藤さんに助けていただきながらも自分では悩みましたし、真野ちゃんと2人のシーンも場面ごとに悩んで、その都度、監督ともすごく話しました。ただ、この映画は2年かけて撮影したんですが、1年目と2年目の間にキャストのみんなでたくさん話をしたので、仲が深くなる時間を持てたんです。だから、1年目は不安が大きかったかもしれませんが、2年目は『ここはこうすればいい』と不安が解消された状態で臨めました」。
――その7人が河原に集まって、タツオ(森永悠希)の誕生日を祝う青春っぽいシーンがありました。
「あそこは『テンポが大切だね』と話したり、目の動きとかを考えました。逆に他のシーンでは、そこまで『こうして、ああして』という感じではなかった気がします」。
――この映画は2008年を起点に時代を追って展開して、東日本大震災とか折々のニュースも挿入されています。くるみさん自身が「あの頃の自分は……」とか思い出したことはありませんでした?
「キリは、今の私ではなくコンプレックスを抱えた昔の自分にとても似ていましたが、時代背景はあまり気にしなかったです。その時代に私も生きていたし、ニュースも頭の片隅にはありましたけど、それより目の前のカナや、カナとタツオが作った曲のことを考えてやっていました」。
――公開が12月7日ですが、くるみさんは今年の年末は30日までミュージカル「サムシング・ロッテン!」の公演があるんですよね。
「そうなんです。ここ数年、年末は『カウントダウンジャパン』とか音楽フェスに行っていましたが、今年は行けるのかな(笑)? 年内は実家にもおそらく帰らないですね」。
――実家に帰ると、どんな年末年始になるんですか?
「普通におせちを食べてグータラして(笑)、お正月番組を観て、初詣に行きます。犬と戯れて、ゆったり過ごします」。
――今年はクリスマスイブもミュージカルの公演が入ってます。
「クリスマスはどのみち、あまり気にしていません(笑)。世の中がクリスマスを意識させる部分はありますけど、自分から『何かしよう』というのはないです。『ああ、そろそろクリスマスか』くらいです」。
――普段だと、仕事の息抜きには何をしているんですか?
「最近は時間があったら、ずっと韓国ドラマを観ています。今までK-POPも聴いてこなかったし、韓国ドラマが流行った時期も観ていませんでしたが、今年の半ばくらいに、知り合いに『トッケビ(~君がくれた愛しい日々~)』という作品をオススメされて、何気なく観ていたらハマりました」。
――日本のテレビでも放送されてましたね。不滅の命を持って生きる昔の英雄が、その命を終わらせることができる女子高生と恋に落ちて……という物語です。
「ストーリーが圧倒的に面白いですし、ヒロインの女優さんが素晴らしいです。喜怒哀楽を豊かに表現しているので。日本人だと、キリもそうでしたけど、ちょっとした目の動きで見せたり、どちらかと言うとおしとやかにやることが多いじゃないですか。韓国では女性のほうが強くて、私はすごく好きです。韓国ドラマを観ると、自分でもそういう役を演じてみたいといつも思います」。
――では2018年を振り返ると、くるみさんにとって特に大きかったことは何ですか?
「今年はどちらかというと舞台の年でした。前半には劇団☆新感線さんの『修羅天魔(~髑髏城の七人 Season極)』をロングランでやらせていただいて、年末にもまたミュージカルがあるので。舞台に携わると、しかも劇団☆新感線さんみたいに長いと、素晴らしい方々と深く関われて勉強になります。そういう出会いが自分の中で、大きな財産になりました。学ぶことが多かったです」。
――どんな方との出会いが印象的ですか?
「先輩の天海(祐希)さんや古田(新太)さんにたくさんアドバイスをいただきましたし、演出の方たちもすごくシゴいてくださいました。この前、舞台稽古の動画を観たんですけど、私の芝居は見られたものじゃなかったです(笑)。『これじゃ、たくさん怒られるはずだ』と思いました。でも、いろいろ言われるうちが華だし、すごくありがたいです。劇団員の皆さんにも『稽古と本番で全然違った』と言っていただけました」。
――確かに、若いとはいえ10年のキャリアがあるくるみさんが改めて演技でシゴかれるのは、貴重な経験ですよね。そうした財産も糧にしつつ、来年はどんなことを目指しますか?
「今年は舞台でひとつの作品に稽古から何カ月も取り組んでいたので、来年は映画やドラマをもっとやれたらと思います。それから明るい役、ハッピーな役をやりたいです。もちろんいただいたお仕事は何でもやりますけど、感情を爆発させるような楽しい役をやれたらうれしいです」。
――キリのようなおとなしい役のイメージが強いくるみさんですが、素は逆のタイプだとか?
「どうですかね? でも、韓国ドラマなどの明るい作品を観ることによって、自分がどんどん明るいほうに寄ってきました(笑)」。
清水くるみ(しみず・くるみ)
生年月日:1994年7月16日(24歳)
出身地:愛知県
血液型:A型
【CHECK IT】
2007年に「アミューズ30周年全国オーディション」でグランプリを受賞。2008年にドラマ「ほんとにあった怖い話 夏の特別編2008」(フジテレビ系)で女優デビュー。2013年に映画「ジンクス!!!」で注目を集める。その他の主な出演作はドラマ「夜のせんせい」(TBS系)、「学校のカイダン」(日本テレビ系)、「戦後70年 一番電車が走った」(NHK)、映画「桐島、部活やめるってよ」、「orange」、「南瓜とマヨネーズ」、舞台「ロミオとジュリエット」、「修羅天魔~髑髏城の七人 Season極」など。映画「青の帰り道」は12月7日(金)より全国ロードショー。ミュージカル「サムシング・ロッテン!」(12月17日(月)~ 30日(日)/東京国際フォーラム ホールC、2019年1月11日(金)~14日(月)/オリックス劇場)に出演。2019年2月16日(土)公開の映画「LAPSE ラプス」、新春公開予定の映画「21世紀の女の子」に出演。
詳しい情報は公式HPへ
「青の帰り道」
詳しい情報は「青の帰り道」公式HPへ