PICK UP ACTRESS 山口まゆ
PHOTO=名児耶洋 HAIR&MAKE=山下景子 INTERVIEW=斉藤貴志
「明日の約束」で毒親を持つ生徒役
リアルな演技で心の痛みを伝える
――「明日の約束」で、男と遊び歩く母親に誕生日もほったらかしにされていた増田希美香を演じていますが、1話の母親につかみかかるシーンはエネルギーを使ったのでは?
「すごく使いました。撮ったのがクランクインの日で、私はあの重いシーンから始まって、役としても精神的にもキツかったです」。
――希美香の深い痛みが伝わりましたが、撮る前から彼女の心境に近づいていた感じですか?
「私は周りと会話していて急にパッと役に切り替えられるタイプではないので、誰ともしゃべらずにいて、自分の気持ちもドーンとブルーになっていました」。
――たぶん幸せなご家庭で育ったまゆさんがああいう役を痛々しいほどリアルにやるためには、いろいろ考えたりもしたんですか?
「やっぱり私は希美香みたいに育ったわけではないから、わからないのでネットとかでいろいろ調べました。実際にああいう経験をした方たちを元にするのは申し訳ない気持ちもありましたけど、自分で読んでいても辛くなって、希美香と重ね合わせて家で台詞を言ってみたら、号泣しちゃったり……」。
――自分の心にも痛みが入ってきて。
「はい。あとは感じたこと、疑問に思ったことを紙に書いてみました。『母親への恐怖心』とか『態度が変わる?』とか……。それを自分の中でまとめて、現場に入りました」。
――現場では、同じシーンを何回も撮るわけですよね?
「あそこは長いシーンだったので、感情が落ちないようにしました。時間がどんどん経って、ちょっと気持ちが切れかけたと思ったら、別の場所に行ってみたり……。やっぱり同じシーンを何カットも撮ると、テンションの上げ方が難しくなるのを感じました」。
――これまでの女優生活の中でも、難易度が高い場面でしたか?
「そうですね。ああやって自分から感情を上げて、にじみ出てきた気持ちでワーッとなることはあまりなかったので、いろいろ大変でした」。
――母親に実は別れた父親との間で生まれたのではなかったことを知らされて、抱えてきた感情が爆発した感じでした。
「お母さん役の青山倫子さんにも助けていただいて、怒り狂うというか、突き飛ばしたりいろいろするので、あとはもう流れに任せようと思いました」。
――役者さんに対して“憑依型”と評することもありますが、まゆさんは事前にいろいろ考えつつ、現場では自分の中に生まれた感情に寄せるタイプ?
「私は撮り終わっちゃえば何も覚えてないくらいスッキリするほうで、そこまで役に憑りつかれることはないですけど、やる前にはものすごく考えますし、普通にしていてもずっと役のことを考えちゃったりします。ただ、私はひとつのところしか見えなくなりがちなので、現場に行ったら監督とかいろいろな人の意見をもらって、視野を広げるのは大事だと思います。現場の雰囲気や、セットがどうなっているかも大切にして、そのうえで相手の台詞を聞いて、純粋に感じたことも出していかないといけないと思います」。
――オンエアで自分の演技を観て「こういうふうにやっていたんだ」と思うこともあります?
「それは現場でモニターチェックをしていても思いますし、改めてテレビで観て『こんな表情をしていたんだ』と気づくこともあります。意識的に表情を作るより、感情から表情が生まれたら、それがベストだと思います」。
自分でいろいろ考えながら
人の意見も聞くように……
――まゆさんは毎回心に残る演技を見せてくれますが、そういう演技のやり方みたいなものは、どこかの時点で身に付けたものですか?
「基本的に自分でいろいろ考えて自分で解決しようとするのは、昔から変わりません。昔は考えてなかったことまで細かく考えるようになってきましたけど、さっき言ったように視野が狭くなってしまうところもあって……。昔は人の意見を聞くのに怖さもありました」。
――どうしてですか?
「聞いたところで自分にできるかわからないし、自分が考えていたことが間違っていたらイヤという感情もあったからです。でもちょっとやり方を変えて、いろいろな人に聞いてみようと思ったのは、夏にこの『明日の約束』に入ってからです」。
――今回がひとつの転機だったんですね。実際、人の話を聞いて良かったと思ったことはありました?
「自分では希美香について、病んじゃって暗くて……という女の子をイメージしていたんです。でも、抱えているものは大きいのに学校では普通で、どんな問題を抱えているのかわからないような子でもあるから、『そこを表現するにはどうしたらいいですかね?』と聞きました。そしたら、『1人でいるときはこういう顔、学校ではこういう顔と、対極にしてみたらいいんじゃないか』と言われて、なるほどと思いました。スクールカウンセラーの日向先生の前ではちょっと緩むところがあるし、どこまで気を張って、どこから心を許すかも、いろいろ相談しながらやりました」。
――希美香は1話で母親と離れて暮らすようになって、その後はバスケット部のマネージャーとして、部員が自殺した問題に絡んでいます。
「『キャプテンの大翔くんにちょっと恋心があるんじゃないか?』みたいな話もしてますけど、お母さんから自立する選択をして、マネージャーとしてサポートすることに今は専念しているんだと思います。今後またお母さんに関わる流れが出てきたら、改めて表現を自分なりに考えたいです」。
――なかなか明るい展開にはならなそうですが(笑)。
「でも、現場はすごく楽しいです。日向先生役の井上真央さんが明るい方で、みんなにあだ名をつけてくれました。私は“やまゆ”と呼ばれています(笑)」。
――冬場になって、ロケ撮影がちょっと辛くなってきたりもしてます?
「寒いのは苦手です。特に朝がダメですね~」。
――春に取材させてもらったときは、朝ドラの「ひよっこ」を学校に行く前に10分観て、帰ってきてから録画で残りの5分を観る……という話でしたが、友だちの葵わかなさんがヒロインの「わろてんか」もそんな感じで?
「今はもう録り溜めて一気に観ています。『わろてんか』も好きですけど、『ひよっこ』のとき、時子役の佐久間由衣さんが大好きだったんですよ。だから『明日の約束』で共演できると聞いて、すごくうれしくて(笑)!」。
――1話で希美香が万引きしたところを、佐久間さんに捕まってました。
「ちょっと絡むシーンだったので、現場で『いつ話し掛けよう……?』ってドキドキしてました(笑)。それで『朝ドラ観てました!』って、少しお話ができたんですけど、もうかわいくて! 本当に素敵だなと思いました」。
――前に「オードリー・ヘップバーンが好きになった」とも話してましたよね。ショートカットでスラッと背が高い女性が好みとか?
「そうですね。佐久間さんはまさにタイプで、大ファンです(笑)」。
――まゆさんは11月20日が誕生日でした。希美香と違って、ちゃんとご家庭でお祝いしてもらったんですか?
「毎年、誕生日ぐらいは『これを食べたい』と言って、お店に連れていってもらったりします。今年は前にもらったお肉のギフトプレゼントをまだ使ってなかったので、そのお肉を食べたいと言いました」。
――17歳に特別感はあります?
「自分の中で16歳は子どもで、18歳は大人になりかけなので、17歳は若さの象徴というか、青春感はありますね」。
――実際、青春してますか?
「はい。でも、学校でワチャワチャしたり、みんなでファミレスに行くのが青春とは、あまり感じません。学校より、友だちと一緒に遊んだり、ごはんを食べながら話しているときに、『ああ、青春だな』と思います」。
――春の取材のときは「クラス替えして友だちがなかなかできない」とのことでしたが……。
「ある程度、打ち解けてきました。……って、遅いんですけど(笑)。12月に修学旅行があるので、それに向けて会話が増えてます。台湾に行って、班で自由行動があるので、小籠包とかおいしいものを食べるグルメ巡りを計画しています」。
――映画鑑賞は最近もよくしているんですか?
「家で観てます。去年の冬に部屋の模様替えをして、テレビも自分の部屋に持ってきたので。最近だと『ニキータ』とか『手紙』とかですね。気分で選ぶので、ジャンルはゴチャゴチャです。この前は台風で大荒れの日に『タイタニック』を観ました。たまたまだったんですけど、観終わって号泣していたら、外も豪雨でした(笑)」。
山口まゆ(やまぐち・まゆ)
生年月日:2000年11月20日(17歳)
出身地:東京都
血液型:A型
【CHECK IT】
小学4年生から子役として活動。2014年に「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ系)でドラマデビュー。これまでの主な出演作はドラマ「アイムホーム」(テレビ朝日系)、「コウノドリ」(TBS系)、「リバース」(TBS系)、映画「くちびるに歌を」、「相棒 -劇場版IV- 首都クライシス 人質は50万人! 特命係 最後の決断」など。ドラマ「明日の約束」(カンテレ・フジテレビ系/火曜21:00~)に出演中。パナソニック「日本のコミュニケーションは進化する/多言語翻訳ソリューション」篇のCMに出演。
詳しい情報は公式HP
「明日の約束」
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