真野恵里菜1年半ぶりのライブにみるアイドル卒業後のファンとの理想の関係

ドラマ「結婚式の前日に」(TBS系)で主人公の恋敵役を演じた真野恵里菜に、ネットで「あの女、出てくるなよ」「あきらめが悪い」などとの声があった。自分はむしろ彼女の側で観ていて、お嬢様が一途さゆえに壊れていく演技に観入ったのだが。ぶっちゃけ、心はマノフレなので。
真野は映画「orange-オレンジ-」にも出ていた。ここでも土屋太鳳が演じる主人公の恋敵役。土屋たちのひとつ上の先輩で、土屋が想いを寄せる山﨑賢人に「同じ東京出身だから気が合うと思うの」などとアプローチしていく。
これは自分も土屋側の心情で観ていたから、イラッとした。意地悪をする場面より、外面の良い彼女が教室から廊下に飛び出してきた土屋とぶつかった途端、「気をつけなさいよ!」と色をなしたとき、一瞬で底意地の悪さがにじみ出て。しかし、マノフレである自分さえ(土屋太鳳にも肩入れしているとはいえ)ムカつかせたのは、真野の演技力を物語るのだろう。
2013年2月、真野はハロー!プロジェクトを卒業した。女優業に本格的に取り組むために。卒業コンサート前の取材では「歌も続けます。でないと、私自身がイヤなので」と話していたが、そのとき自分はふと昔のことを思い出した。
雑誌の仕事を始めて、最初に担当した連載。アイドルだった酒井美紀のコーナーを作った。当時は静岡から仕事に通ってきて、キャッチフレーズの“天然純水派”そのものの女の子。アイドル低迷期でCDセールスは苦戦していたが、岩井俊二監督の映画「Love Letter」、そしてドラマ「白線流し」(フジテレビ系)の主演で女優として注目されるように。
「白線流し」の後も、酒井自身は「私が一番好きなのは歌です」と話していた。だが、ドラマ出演が増えるのと反比例してCDリリースは滞り、やがて途絶えた。客観的に見れば脱アイドルの勝ち組ベクトル。ライブがなくなるのは、ファンが直接“会える”機会が減ることも意味するが、成功のためには手放さなければならないものもある。
「歌も続けたい」と言う真野も、たぶん同じことになるだろうと思った。そうなってほしい、とも。女優として活躍して、歌に戻る暇がないくらいに。まして“ハロプロ卒業”と明確に区切りを付けたのだから。
その後、真野はドラマ出演を続けていたなか、2014年6月に唐突に東京と大阪でライブを行った。卒業前に言っていた「生バンドで」との希望も叶えて。それから、主演映画「THE NEXT GENERATION -パトレイバー-」を始め、出演作が途切れなくなる。今度こそ「もう歌はない」と思っていた矢先、また唐突に2016年1月に1年半ぶりのライブ開催と発表された。
東京公演が行われたのは1月17日のZepp DiverCity。ステージに現れた真野恵里菜は純白のミニスカ衣裳。映画やドラマの彼女は全部観ていても、こういう姿は久しぶりだった。昨年9月に写真集を発売した際、「ダイエットして5キロ痩せた」と話していたが、脚も昔よりスラッとした気がする。
1曲目はメジャーデビューシングル「乙女の祈り」。当時はピアノで弾き語りしていたのを、バンドの生ピアノに合わせてマイクを持って歌う。他の曲も、森高千里の「渡良瀬橋」のカバーなども入れつつ、10代から20代始めのアイドル時代に歌っていたものばかり。だがバンドアレンジで、女子高生役は演じても24歳の真野が、今の曲として歌い上げていく。「18歳の季節」もピアノをフィーチャーしたシャレたグルーヴで。
だから、懐かしい感じはしないライブだった。どの曲も昔より深みがあって。ボイトレとか今はやってないのだろうけど、女優として表現力が増したのが生きたのか。ダンスもブランクはあったはずだがキレていたうえ、時折り色っぽさも漂っていた。
懐かしさが薄かったのは、状況のこともある。真野は今、女優の階段をどんどん上がっていて、マノフレは直接会えなくても、その姿をドラマや映画で観ている。久々のライブもアイドル時代を「良かったね」と振り返るのでなく、前へ前へ進んでいるなかでのもの。先へ行く道の途上で再会した雰囲気が、ポジティブで心地良かった。
真野がMCで語ったところによると、本人もライブは「難しいのかな」と思っていたそうだが、スタッフから「年明けにやる?」と言われて「すごくうれしかった」と。女優業が軌道に乗っても、歌への想いは消えてなかったようだ。「横腹が痛くなったり、酸欠で頭が痛くなりましたけど、やっぱりライブって楽しいですね」と話していた。
「またこういう場で会えるように頑張ろうと思ってます。ずっと大きい会場は約束できないけど、1人でも私の歌を聴きたい方がいる限りは」。
真野はそう言ったが、彼女の歌を聴きたい人がいなくなるかより、女優としてさらに躍進してライブをやる時間が割けなくなる方が壁だろう。でも、彼女はライブ=マノフレと会える場を心の糧に女優を頑張り、マノフレも映画やドラマで彼女を見守りながら、そのときが来れば集まる。そんな形で数年に一度でもライブを続けていけたら、アイドル卒業後のファンとの関係として理想的ではないか。
アイドルグループを卒業した途端、ファンがどこかに行ってしまうことも少なくない。だが、アイドル時代からソロだった真野は、握手会でも個々のファンとの連帯感が強く、「お互い頑張ろう」とキャッチボールする感じだった。形は変わっても気持ちは続いている。本人とファン双方に。
アンコールで歌った現状ラストシングルの「NEXT MY SELF」では、「今だからこそ本当の歌詞の意味が伝わるのかも」と真野恵里菜は言った。“はるか遠く離れて/君の笑顔見えなくても/願いがそう届くように/まっすぐな想い/あの頃のように”という歌だ。そして、観客が着ていたこのライブTシャツの背中には、“今でもマノフレ。”との文字が綴られていた。

ライター・旅人 斉藤貴志