中年がアイドルオタクでなぜ悪い!〜Part 1:現場の目撃者〜

 
 
1月8日、さいたまスーパーアリーナにて『第1回ワンデイワールドリーグ戦』が開催された。
 こう書くと、まるで格闘技のビッグマッチが開催されたかのように聞こえるかもしれないが、これは正真正銘、アイドルのイベントなのである。
 スターダストプロモーションに所属するアイドルたちが一堂に会し、ファンの歓声&拍手が大きかったほうが勝ち(歌い終わったあと、その場で測定する)というガチ勝負。勝利したアイドルはそのままステージに残り、次に登場するグループと連続で対戦するというハードなルールで、連勝するのは非常に困難。お互いに勝負曲をぶつけてくるし、会場に集まったファンが審査員になるので、その場の空気感にも大きく左右される。どうしても勝ち残ったグループよりも、チャレンジャーを応援したくなってしまうのだ。
 ただし、トーナメントではないので、1回負けたら、そこでおしまいというわけではない。負けたグループにも再登場のチャンスは残されていて、とにかく最後にステージに立っていたアイドルが優勝、というラストマンスタンディングルールを採用。若いグループにも大逆転のチャンスは残されていた。
 そんな中で見事にばってん少女隊とS★スパイシーを連破してみせたのが、3B juniorだった。このイベントの目玉はももいろクローバーZ対私立恵比寿中学対チームしゃちほこの三つ巴戦で、結果、しゃちほこがももクロとエビ中を連破する、という下剋上を成し遂げ、場内は大興奮状態になったのだが(リターンマッチでももクロに敗れてしまい、惜しくも優勝はならず)、前半戦のMVPは間違いなく3B juniorの快進撃だった。
 さきほど連勝は困難と書いたが、実際にこの日のイベントで連勝を飾ったのはももクロとしゃちほこ、そして3B juniorの3組しかいないのだ。
 比較的、少人数のグループが多いスターダストにおいて、総勢26人の3B juniorは異質の存在である。少ない数のメンバーがだだっぴろいステージを駆けまわる他グループとは対照的に、優雅なフォーメーションでステージを埋め尽くす26人。圧倒的に華がある。ただ人数が多いというだけではなく、ちゃんとステージの広さに見合ったパフォーマンスをしているところに感心した。
 一曲入魂。
 一発勝負だからこそ、一曲にすべてをこめることができる。それはこの日のオープニングバウトで勝利を収めたばってん少女隊にも感じたことで、その一瞬の煌めきは、初見のお客さんを虜にするには十分すぎた。アイドルファンに「見つけてもらう」には最適なイベントだったんだな、とつくづく思う。
 ただ、相当な覚悟がなければ、あれだけたくさんのお客さんが見守る中で、堂々としたステージングを披露するのは難しい。
 そういえば、開演前、こんな光景を目にした。
 ももクロがステージ上でリハーサルをしていた。
 翌日にも同所でフェス形式のライブがある。この日の順位によって持ち時間が変わってくるので(優勝チームには特典として60分が与えられる)、通してはできないが、短時間ながら集中したリハーサルが続く。
 その光景を会場の隅から眺めて「やっぱりすごい。こういう姿を見せられたら、勝てる気がしなくなっちゃう」と圧倒されていた若いアイドルたちもいたが、客席のど真ん中のブロックに陣取って、ジーッとリハーサルを凝視する集団がいた。
 3B juniorの26人、だった。
 それはもう見学ではなく、なにか殺気のようなものまで感じてしまうほど、ヒリヒリとした視線がステージに向けられていた。ひょっとしたら、今日、ももクロとこのステージで対戦することになるかもしれないのだから、これぐらいの緊張感はあってもいいし、客席から見ることで、おそらく、自分たちの「見せ方」の参考にもなる。これまで経験したことのない大きなステージなのだから、先駆者から学ぶのはとても大事なことだ。
 昨年5月、3B juniorのユニット「はちみつロケット」と「リーフシトロン」がイベントを開催するというので、けやき広場に観覧しに行ったことがある。
 仕事でも取材でもなく、純然たるプライベートでの「オタ活」だ。
 けやき広場はさいたま新都心駅からさいたまスーパーアリーナのあいだにある。
 ビール祭りなどのイベントが開催されるときは、いくつものブースが立ち並び、とんでもない人数が滞留することになるが、普段は駅を降りた人たちがどんどん素通りしていくだけのスペース。なにか催しものをやっていても、わざわざ立ち止まって覗きにくるような人はあんまりいない。その日は午前中の開催だったので、歩いている人自体が少ない。そもそもイベントを見にきてくれているお客さん自体、決して多くはなかった。
 イベントをする場所には屋根はないけれども、歩道には雨や日差しを避ける屋根が設置されているので、余計に通行人はそこから出てこない。まったく興味を示さない人たちが、ステージ横をスルーしていく姿は、まだ若いアイドルたちにとって、かなりシビアな光景になってくる。
 そんなステージで彼女たちは懸命にパフォーマンスをしていた。
 その視線の先には巨大なさいたまスーパーアリーナがある。昔、ももクロがNHKホールを遠目に見ながら、代々木公演で路上ライブをやっていた、という逸話につながってくるような景色がそこにはあった。
 それからわずか数カ月で3B juniorはさいたまスーパーアリーナのステージに立ち、なんと、ももクロとの直接対決まで実現してしまった。
 連勝した勢いで、奇跡の番狂わせにも期待がかかったが、そこはキャリアの浅さからくる悲しさで、もはや勝負を賭けるだけの切り札曲が残っておらず、ももクロの『DNA狂詩曲』の前に完敗してしまった。
 でも、ドラマは続く。
 遠くから眺めていた、さいたまスーパーアリーナの舞台に立ち、ももクロと対戦して、完敗する。
 普通だったら考えられないような経験が、この日、まとめてやってきた。
 だったら、今度は単独ライブでさいたまスーパーアリーナに到達すればいいし、そのときには確実にこの日の経験が活かされる。そして、いつの日か、実績でももクロを追い抜くことで完敗のリベンジを果たせれば、この日、負けてしまったことにも大きな意味が生まれてくる。
 たかだか、ひとつのイベントのワンシーンから、ここまで大きな妄想を膨らませることができるのが、アイドルオタクの「特権」。でも、無印時代からももクロを追いかけてきた人は、路上ライブから紅白の舞台に到達するまでの物語をリアルタイムで目撃しているわけで、こんな妄想が「現実」に化けるのもまた、アイドルを追う楽しみのひとつ。そして、物語は常に「現場」で発生していくんだ、ということを改めて3B juniorに教えてもらったような気がする。
 
 

小島和宏(こじま・かずひろ)

生年月日:1968年10月4日
出身地:茨城県
血液型:B型
 
1981年、歌番組で観た伊藤つかさの「少女人形」がきっかけでアイドルにハマる。大学卒業後、週刊プロレスの記者を経て、フリーランスへ転向。2009年頃からアイドル関連の記事を執筆し、アイドル熱が再発。現在、ももいろクローバーZの公式ライターであり、AKB48・HKT48に関する著作や取材記事も多数。「BUBKA」にて、「Negicco〜Road to Budokan〜」を連載中。アイドルオタクの恍惚と苦悩を綴った新刊「中年がアイドルオタクでなぜ悪い!」(ワニブックス)が2月29日(月)に発売。
 
 

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