「DOME TREK2016」外伝 第4回 有安杏果編

(1)花粉症という新たな敵

 もはや、とてつもなく昔の出来事になってしまった『DOME TREK2016』だが、11月16日にBlu-ray&DVDがリリースされたことで、あの興奮がまたよみがえることになった。
 いや、ドームに足を運ぶことができなかった方々にとっては、この映像作品が初見となるわけで、ますます余韻が広がっていくことになるんだろう。
 そんなタイミングでお届けする「有安杏果編」だが、正直な話、杏果本人はあまり思い出したくないんだろうな、と。
 ステージでのパフォーマンスはともかくとして、体調面ではまさかまさかの連続で、本当に泣きをみたツアーだったからだ。
 有安杏果は2015年の暮れに、扁桃腺を手術で摘出した。
 昨年、何度も扁桃腺が腫れてしまうアクシデントに見舞われ、ライブ当日、まったく歌うことができずに、ダンスだけで参加する、ということもあった。
 いつまでもこんなことが続くのであれば……と、彼女は摘出することを決意した。
 その先には公表こそされていなかったものの、すでに水面下で開催に動いていたソロコンサートがあり、当然のことながら、長丁場になるドームツアーも頭にあったはず。
 とにかく扁桃腺さえ摘出してしまえば、あとは風邪をひかないように注意さえすれば、問題なく乗り切ることができる。
 しかし、そんな希望は打ち砕かれた。
 なんの前触れもなく、花粉症が爆発したのだ。
 花粉症持ちの方ならおわかりかと思うが、あればっかりはどうにも防ぎようがない。
 いや、すでに花粉症になってしまっているのであれば、ブロック注射などで症状を和らげようとしたり、さまざまな工夫を施すことができるのだが、前シーズンまで花粉症と無縁だった人は、まさか自分が発症するなんて、考えもしないから、最初の年は戸惑いながら、身を任せるしかないのだ。
 その「まさか」の発症が、「まさか」のドームツアーと重なってしまったのだ。
 

(2)さらなる災難が彼女を襲う

もう気の毒としか言いようがなかった。
 人生初の花粉症は予想以上に強烈で、不運にも中耳炎まで引き起こしてしまった。
 喉のトラブルとお別れしたばかりなのに、今度は耳、である。
 中耳炎になると、気圧の関係で耳に負担がかかる飛行機移動は、とんでもない苦行になる。福岡・ヤフオクドーム公演では、それを避けるため、有安はひとりだけ新幹線で博多に入り、新幹線でまた東京へと戻っていった。
 飛行機だったら、あっという間に博多へ着くのに、新幹線だと5時間以上もかかる。
 しかも、ドームでの公演が終わるころには、もう終電は終わっている(飛行機ならば東京まで帰れる)。
 他の4人と比べると、相当な遠回りをして、有安杏果はドームツアーを完走した、ということになるわけだ。
 ただ、それがまったくの無駄だったかというと、そういうわけでもない。
 なんともいえない不安と葛藤の日々。
 どこにもぶつけることができない、そんな気持ちを彼女は歌詞にしたためた。
 そして、その歌詞に曲がつき、横浜アリーナでのソロコンサート『ココロノセンリツ ~Feel a heartbeat~ vol.0』で披露されることになった。
 その曲名は『Another story』。詳しい理由は11月26日に大分・ビーコンプラザで開催された『ココロノセンリツ ~Feel a heartbeat~ vol.0.5』の公式パンフレットに本人の言葉で刻まれているので、ここではざっくりと触れたい。
 殴り書きしたような歌詞だから、本人はしばらく封印しておこうと思っていたようだが「この歌詞は私の“今”の気持ちが詰まっている。だったら“今”伝えないと意味がない」と考え直し、あえてオリジナル曲として横浜アリーナで公開した。
 辛いことも多かったドームツアーだったが、有安杏果はその道中で苦しさや辛さを歌詞として昇華させることを覚え、それはソロコンサートで見事に花開いた。
 ドームツアーでの経験がなかったら、横浜アリーナで披露される新曲は8曲で終わっていたかもしれない。ソロアーティスト・有安杏果の根底は、やっぱり、ももいろクローバーZとつながっているのだ。
 

(3)ドームツアーで得た大きなもの

 ドームツアーで有安杏果が得たものは、本当に多い。
 彼女がメインを務める『ゴリラパンチ』は完全にツアー中にライブで化けて、いまではコンサートには欠かせない鉄板曲として定着した。
 そして、メンバーのソロパフォーマンスコーナーで披露したドラムである。
 他の4人はコンサートの本編の中に、ピアノだったり、ギターだったり、タップだったり、フープだったりを披露する。
 だから、アルバムのコンセプトから離れた後半戦では、かなりリラックスした状態で、MCなどを楽しんでいた。
 しかし、杏果だけは、このあとに大仕事が待っている。
 本人曰く「コンサートがはじまってから終わるまで、ずーっと緊張しっぱなしだったんだよ!」。
 だが、結果としてファンの注目を一身に浴びることになった。
 メンバーがMCをやっている間にスーッと準備をはじめ、情熱的にドラムを叩く。アルバム曲ではなく、ファンなら誰でも知っている『ツヨクツヨク』と『コノウタ』を披露するから、盛りあがりは最高潮に達する。
 かっこよくプレイし終わったあと、ドラムセットから飛び出していって『行くぜっ!怪盗少女』のフォーメーションに合流していく一連の流れは、まさに「杏果劇場」。コンサートのクライマックスに火をつけるのが、彼女のドラムだったのだ。
 ずっとリハーサルから見ていて、すごく不思議に思っていたことがあった。
 いつもリハーサルでは「えっ、これで大丈夫なの?」というくらいキレがないのに、本番になると、毎回、キレッキレの演奏を見せてくれる。あれはいったいなんだったのだろうか?
 ツアーが終わってから、本人に聞いてみたら、ちょっと頬を赤らめながら、こう答えてくれた。
「あぁ、周りから見ていると調子が悪いと感じてたんだ。そんなことないの。ちゃんと練習もしてきたしね。でもさぁ、リハのときはお客さんがいないじゃん? メンバーしか見ていないのに全力で叩くのはやっぱり恥ずかしくって……」。
 それは今回の『ももっと、有安杏果』で久々のグラビア撮影を終えての感想を聞いたときと、ほとんど同じアンサーだった。
 ドームツアー、そしてソロコンサートを経て、大きく成長した有安杏果だが、根本の部分はいい意味で変わっていなかった――。
 
 
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Text=小島和宏