PICK UP ACTRESS 秋月三佳
PHOTO=松下茜 INTERVIEW=斉藤貴志
映画「シスターフッド」で物語の軸に
寂しさ漂うラストシーンが胸を打つ
――去年からイタリア語とフランス語と英語を勉強しているそうですね。
「あいさつ程度ですけどね(笑)。ヨーロッパが好きでイタリアとかに旅行に行って、もっと話せるようになりたいと思いました。でも、まだ『チャオ』『グラッチェ』くらいな感じなので、全然これからです(笑)」。
――3カ国語を同時進行で勉強しているんですか?
「そうです。意外と三つ一緒に勉強したほうが、記憶しやすい感じがします。去年は毎日やってました」。
――イタリア語の日、英語の日……とか日替わりで?
「いえ、毎日三つです(笑)。携帯のアプリでひたすらしゃべってました。そのアプリを全部やり終えてしまったので、ここからどうしようかと思っているところです」。
――ヨーロッパの中でも、イタリアが好きなんですか?
「好きですねー。ローマとかベネツィアとかに行きましたけど、イタリア料理が大好きです(笑)。チーズもピザもパスタも何でもおいしくて、ワインを飲みながら食べるのも好きです」。
――公開中の映画「シスターフッド」では様々な女性の生きる姿が描かれている中、秋月さんの演じたユカのパートはエンディングに掛かることもあって、すごく印象に残りました。
「最後の場面に向かって、ずーっとそこにいる感じの役で、物語の部分の軸になっているので、やりやすかったです」。
――ドキュメンタリーと劇映画が混在した作品で、秋月さんの出演部分は演技パートでしたが、それでも通常の映画とは違う空気感がありませんでした?
「西原(孝至)監督とは以前に『Starting Over』という映画でご一緒したんですが、そのときも街中でゲリラ的に撮影したり、『ハイ、ここで会話して』みたいな感じだったんですね。監督はロケハンして、いろいろ考えられた上で、シーンにスッと入る。お客さんに向けて台詞を言ったり会話するのではなく、その場で成立させる観客ゼロのお芝居というか、そんな作り方が独特だと思いました。今回も監督に『どういうふうに撮るんですか?』と聞いたら、『Starting Over』と同じということでした」。
――そういう撮り方は、女優さん的にはどうなんですか?
「やり甲斐はありますね。長回しが多いから、今回なら彼氏役の岩瀬(亮)さんと呼吸を合わせて、一緒にシーンを作っていく感覚でした。会話しながら岩瀬さんがどういう反応をするか、よく見ていた記憶があります」。
――夜道でユカが、がんを患う母親を介護するために仕事を辞めてカナダに移り住むことを彼に話したシーンとか、リアルな会話を見ているようでした。
「あれもその場でスッと演技を始めて、私が『カナダに行くんだよね』と言っても、岩瀬さんが『ああ』って旅行に行くと思った感じで、現実にありそうな空気でした。それこそドキュメンタリーっぽかったです」。
――ユカは女優兼モデルで、彼氏の池田はドキュメンタリー映画の監督。2人がどんな付き合い方をしてきたとかは想像しました?
「監督と岩瀬さんと打ち合わせをして、どこで出会って、この年の差でどう付き合ったとか、履歴書のようなものを作りました。彼が撮ったドキュメンタリーのナレーションをユカがやったのが出会いで……とか、本編と関係ない細かいところまで考えました」。
――カナダに行くことは別にしても、2人の間にはすきま風が吹いているようでした。
「すきま風だらけでしたね(笑)。すきま風の吹く2人をずーっと演じていた感じです」。
――カナダに行く話をする前にも、池田の些細な言葉にユカが突っ掛かっていったり……。
「2人の恋愛関係にも仕事とかの価値観にも、いろいろ距離が出ていたんだと思います。彼が楽しそうに話していても、何か気になってしまう。そういうときに言いたいことを言える関係でもあるんですけど……。ユカは前向きに仕事をやりたい気持ちを持ちながら、胸の内に引っ掛かっていることが常にあるように思いました」。
――そういうことも含めて、ユカの人物像についても掘り下げたんですか?
「はい。初めは彼のことも仕事のことも、どう考えているのか掴めませんでした。私は『やりたいことはやればいい』というタイプなので。でも、“道があるようで無い”みたいなユカのあいまいな状況を、西原監督に説明してもらって理解しました」。
――納得できるものがあったと。
「そうですね。私にも見通しがハッキリしなくて、どうしたらいいかわからないときはあるので、そこを素直に演じました。彼がひょうひょうとしている分、水面下でいろいろな感情になっています」。
――後輩モデルの梓(栗林藍希)との会話で「友だちがいない」とも言ってました。
「頑固な人なんだとは思います。私自身も打ち解けられる人とそうではない人がいるので、そこは重ねやすかったんですけど、栗林さんがあの役をやってくれて良かったです。後輩だけど思ったことを言う。あっけらかんとしながら芯を突いてくる。そこで私も『そうなんだよね……』と自然に言えるような相手だったので、楽になったし、ユカのモヤモヤが浮き立ちもした感じでした」。
――梓には「師匠感がある」と言われてましたが、それは秋月さん自身からにじみ出てましたかね?
「いやぁ……。私には永遠の後輩感しかなくて、すいません(笑)。あそこは大人になっても悩んでいる姿も含めての、師匠感だった気がします」。
幸せを感じるのはもの作りをするときと
ゆっくり朝ごはんを食べるときです(笑)
――秋月さんがユカと同じ状況だったら、もう帰らないつもりでカナダに行きますか?
「母親が末期とかだったら行きます。でも、向こうに住むかは行ってみないとわかりません。事務所を辞めるかどうかも、カナダに行ってから考えます。だって、辞めることをお母さんが喜ぶかと言ったら違うと思うし、ひと言めに『何で帰ってきたの?』って言われそう」。
――そういうシリアスな状況ではなくても、お母さんと実際そういうやり取りをしたことが?
「いつもしているかもしれません(笑)。私の母は毎朝“ファイト一発!”的な人で、『ハイ! 頑張って行ってらっしゃい!』という感じなので」。
――空港で見送りに来た梓と話すシーンは、何とも切なくなりました。
「あれはモノクロ映画であることがすごく効いていたと思います。カットバックで栗林さんの表情と私の表情がモノクロで映るのは、自分でもグッときました」。
――特に、秋月さんの泣きそうな笑顔が……。
「あそこは監督がこだわって、何回かやりました。いつもは1回で『いいんじゃないかな』という感じなんですけど、そこだけは私の気持ちが上がるまで、粘ってもらった記憶があります」。
――どんな気持ちになったんですか?
「栗林さんとのシーンは結構重たいというか、情に訴えるところがあったんです。サラッと話しているようで、お別れの言葉だったりするので、それによって自然と現実を受け入れる感じでした」。
――監督のこだわりとして、具体的に言われたことはありましたか?
「表情ですね。カナダに行かないといけない現実の寂しさを表情に出せるように、監督と話しました。私自身、あの撮影のときは『この状況で飛行機に乗っていくのは寂しいな……』と感じていました」
――ユカは梓に「セルフリスペクト(=自分らしく生きる)」の話をしてました。それは秋月さん自身も大事にしていることだったりしますか?
「はい。心掛けています。演技をしているときはあまり考えませんけど、写真撮影のときはセルフリスペクトがないと、わからなくなっちゃうんですよ。私、そういうときは矢沢永吉さんのことを思い浮かべます」。
――常にYAZAWAを貫いていて、偉大ですよね。
「絶対にブレないじゃないですか。あれこそ本当のセルフリスペクトだと思うんです。それをチラッとマネします。別に『AKIZUKIはこうなんで』みたいにするわけではなくて(笑)、気持ち的にロックで行こうと思ってます」。
――写真撮影に対するそういう意識は、「ミスマガジン」としてグラビアをやっていた頃からあったんですか?
「『小道具を持って撮ると安心するな』というくらいで、昔はあまり考えていませんでした(笑)。水着がどうこうとかもなかったです」。
――勢いでやっていたとか?
「本当にそうです。勢いと、一緒に『ミスマガジン』に選ばれた衛藤美彩ちゃんたちと本当に仲が良かったので、楽しさが写真に出ていた感じでした。かわいく写りたいともあまり思ってなくて、カメラマンの方に『こうしてみて』と言われた通りに『ハイ!』とやるだけ。1人で撮られるようになってから、撮影も戦いだと思って、考えるようになりました」。
――「シスターフッド」は「わたしの幸せはわたしが決める」がキャッチコピーになっています。秋月さんはどんなときに幸せを実感しますか?
「やっぱり、もの作りをしているときは幸せですね。自分から何か行動しているときも、人から何かを受け取って演技しているときも」。
――日常のふとしたときに幸せを感じることもないですか?
「のんびり朝ごはんを食べているときは幸せです(笑)。今朝もいぶりがっこと梅干しのおにぎりとお味噌汁を、母が作っておいてくれたので食べました。自分で作るときもありますけど、朝ごはんは絶対に食べないとダメです」。
――「朝はごはんより寝ていたい」という人もいますが……。
「私は朝は強いんです。起きた途端に普通に笑顔になれます(笑)。テンションも朝から高くて、寒いとダメですけど、ストレッチして体を暖めます。本当に朝は活動的です」。
――愛犬もいるんでしたっけ?
「はい。2匹いて、何年も一緒にいる老犬とおじさん犬で、大好きです。かわいがっていて、散歩に連れていって、ボールで遊んだりします」。
――そういうときも幸せですか?
「そうですね。でも、老犬のほうはもう15歳で病院通いをしていて、薬をたくさん飲んでいるので、家にいるときは付きっきりで見ています。だから切ないですけど、今は幸せです」。
――公私含めて、幸せな方向に行ってる感じですね。
「ありがたいことにいろいろな作品に出させていただいて、出会いも増えています。『シスターフッド』でも兎丸(愛美)さんと初めてお会いして、前から仲良かったBOMIさん、遠藤新菜さんとも共演できました。3人とも追い掛けたくなるような個性があるじゃないですか。私はそんなに自分から発信しなくて、SNSも『和んでもらえたらいいな』くらいなので(笑)、影響は受けても変われないと思いますけど、大好きな3人です」。
――秋月さんも追い掛けたくなりますよ。「シスターフッド」ではそんな皆さんのそれぞれの個性が出てました。
「自分ももの作りをしている人間として勇気付けられた映画なので、いろいろな方にフラッと観てもらって、何かを感じていただけたらと思います」。
秋月三佳(あきづき・みか)
生年月日:1994年4月13日(24歳)
出身地:東京都
血液型:O型
【CHECK IT】
スカウトされて芸能界に入り、2010年に映画「恋するナポリタン~世界で一番おいしい愛され方~」でデビュー。2013年に映画「風切羽~かざきりば~」で映画初主演。その他の主な出演作は映画「Starting Over」、「ガールズ・ステップ」、「母さんがどんなに僕を嫌いでも」、「青の帰り道」、「翔んで埼玉」(公開中)など。映画「シスターフッド」はアップリンク渋谷で公開中(全国順次公開)。2019年公開予定の映画「漫画誕生」に出演。
詳しい情報は公式HPへ
「シスターフッド」
監督・脚本・編集/西原孝至
製作・配給/sky-key factory
詳しい情報は「シスターフッド」 公式HPへ
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