舞台裏のプロフェッショナル 川上アキラ

舞台裏のプロフェッショナル 川上アキラ

PHOTO=城方雅孝 INTERVIEW=井上朝夫
TEXT=柳真樹子

なぜ、北へ向かうのか……
川上アキラの回答はいかに?

井上「そもそも何故、『ももいろクリスマス2015~Beautiful Suvivors~』(※以下ももクリ2015)で北へ向かうのかを聞きたいと思い、今日の場を設けていただきました。今まで、日本青年館(2010年)に始まり、さいたまスーパーアリーナ(2011年、2012年、2014年)西武ドーム(2013年)とあって、今年は緯度が1度上がる軽井沢に。何故、そこへ向かったの!?」。

川上「『札幌雪祭り』のイメージが強くて、あの大きなステージって多分、自衛隊の方たちが作っていたと思うんです。自分が、札幌の雪祭りが大きくなる過程を見ていた年代なのかもしれません。元々、雪のステージのイメージはあって、何年か前の西武ドームで雪を模したステージは作ったけれども、実際にやってみたいなというのはずっとありました。自分もスキーをしていたので、経験値から、ゲレンデにいれば吹雪かない限りはある程度可能であるのかなと思っていたのと、軽井沢のスキー場は晴天率が高いというのも知っていたので実行しました。本当は湯沢とかでもやってみたいんですけど、そこはステージを立てることや一晩で天候が変わる難しさもあって諦めました。雪とももいろクローバーZを融合させたエンターテインメントを作れないかなと思ったのがきっかけです。見る環境だったりやる方のことは別として、基本は絵から入ってますね」。

井上「今の第一声で打ちのめされた(笑)。『ももクロ見聞録』を読んで、いちばん最後に『本書では、あたかも僕が先々のことのように描かれているけれど、あらかじめ計算されたことなんて何もない』とあって、そーだよなーって爆笑しましたもん」。

川上「あ、じゃあ嘘です! 今喋ってるの嘘ですよ!」。

井上「まさか、『ももクリ2015』の裏側で、自分がスキーを嗜んでいるのと、『晴天率』という言葉が出てくると思いませんでした(笑)」。

川上「嫌だなあ、かっこわるいですね。止めましょうよ(笑)! たまたまスキー場が空いてただけですよ(笑)。もっと、みんな苦しめてやろうと……」。


井上「ちなみに、スキーを嗜んでるということですが、どのぐらいの腕前ですか?」。

川上「何年か前のニッポン放送のバレンタインイベント(ももクロくらぶxoxo)で、誰かがゲレンデで滑っているのを逆向きで僕がカメラを撮ってますよ」。

井上「僕はスキーできないんですけど、それってどんなレベル?」。

川上「どうなんでしょうね。僕もバッチテストを受けてるわけではないんですが、普通に撮影をしながらゲレンデを滑るぐらいはできますよ」。

井上「へー、でも埼玉出身ですよね?」。

川上「親が北海道なんですよ。スノボよりもスキーっていう」。

井上「〝札幌の雪祭り〟への憧れっていうところはそこに通ずるものがあるんですかねぇ?」。

川上「感覚としては雪はあるんでしょうけど、単純にユーミンへの憧れだったりもします。スキー場に対する憧れは強かったかなあ」。

井上「あとは晴天率?」。

川上「たまたま軽井沢のスキー場は、自分も行ってたところで。ここだったら音出しても怒られないかなと、経験として分かっていて。なんせ絵から入ったので」。

井上「確か2年前の西武ドームでは、僕は凍える思いをしたんですよ。更に開始が30分…いやそれ以上遅れて。西武ドームで僕は振り落とされちゃいました(苦笑)。その中で開演を待っているモノノフさんたちは文句言わずに待っているんですよ。文句言ってるのは僕ぐらい(苦笑)。体感気温が下がる(※軽井沢12月の平均 -5.7度)ってことは、絵から入ったにせよ、参加する条件が高すぎます! 今回ほど条件が高いイベントってフェス以外は見たことないですよ」。


川上「うち、性別とか色々やってますよ」。

井上「性別に関しては、そもそもの条件じゃないですか。今回は、シャトルバスとか、JTBさんとの組み合わせで、自家用車がNGだったりとか。そういう付帯条件があるイベントというのが前代未聞」。

川上「意外とあると思ったんですけどね。その会場に行こうとするモチベーションに、うちは応えられるステージを作るだけで。今回は人数も少ないですけど、それに臨んでいる人だっているわけで。ちょっと環境のいいライブビューイングとかも用意してますけど。zeppが今、札幌、東京、大阪はおさえられていて。ライブビューイングの環境なので、そこは冷房ガンガンに(笑)。バーチャルに体感できるようにしたいです。雪降らせるとか考えてますからね。そういうところで、実体験したい人は後から語り継いでもらって。一応、安全面とかこちらも考えてますけど、通常と違った状況で見るライブってどういうものかと…いわば実験ですね」。

井上「確かにね。『ももクロ見聞録』で見ても実験とかテストとか、そういう単語がたくさん出てくるんですよね。でも、最終的にそれが伝説となるところがももいろクローバーZとあなたのすごさで」。

川上「〝伝説〟。今回もなってほしいですね」。

井上「普通の感覚値でいえばどう考えても、とち狂ってるから(笑)」。

川上「でもね、楽しいイベントにはしたいんです。ライブ見ながらもそこで美味しいものが食べられるとか…。今年のエコパ(桃神祭 エコパスタジアム大会)がいちばん理想の形かなと思ってます。ライブを待ってる間にも、外で違うライブが観られたり、出店があったりとか。今回もスキー場があって、その周りに縮小した形でああいったものを作りたいなと思ってます」。


井上「そんな中で、『甘く考えてたら命取りになるからな!』という参加者たちへの告知VTRもあって。そこら辺の諸注意を改めてお願いします」。

川上「寒いのは事実です。この前、『男祭り』を福岡でやって分かったんですけど、寒さってお客さんもプレイヤーも集中力を削ぐと思うので、そこのところの万全の体勢をとってもらいたいですね。あとは、雪上に立つので、足元も通常の防寒じゃないのを用意してもらえたら。スノーブーツやスキー靴など必要になるかと思います。寒さの部分を自分で考えて頂ければ、それ以外は楽しめるようにしますんで!」。

2015年のももクロ総括
そして新たな2016年へ

井上「2015年のももクロさんを考えると、今までのももクロさんより、色んなハードルが上がった気がします」。

川上「ハードル…という言い方をするか分かりませんが、幅の広い見せるセグメントを増やしたのは事実です。親子祭りであったり、もっと安価で見られるものとか、ラインナップを増やしましたね」。

井上「例えば演劇(『幕が上がる』)をやらせてみたりとか。映画を撮ったのは去年ですが、その辺りから、色んなことに対して、ももクロのメンバーに次のステージを用意しようという考えはあったんですか?」。

川上「それはタレントなんで、長いスパンでできるように考えてます。元々、どこでも言ってますが、アイドルが女優や俳優をやったりしていて、アイドルがやっぱりいちばんすごいと」。

井上「今回、初めて、今年の『ももクリ』の会場を聞いた時、とんでもなくハードル上げたなと(笑)。真のモノノフをふるいにかけてるのかと思ってました」。

川上「そんなことはないですよ(笑)! こういう楽しみ方もあるという提示で。よく『ドームにライブビューイングないのか?』と言われますが、ドームは生で観て欲しいと思っていて。やっぱりももクロのいちばんはライブだと思っているので、ドームに関してはライブビューイングは考えてないです。ただ、今回のももクリは特殊なもんなので、色んな見方があっていいのかなと思ってますね」。

井上「終った後の感想が賛否両論だと思いますよ。ちなみに、僕らのような取材のメディアとかにはどういう対応を?」。

川上「どうしますかねえ? 興味ある人だけ来ればぐらいの(笑)。こちらも何も用意できるわけじゃないので。それにのっかってくれるスタッフだと嬉しいです」。

井上「機材とかが雪の重みや寒さでとんでもない状況になるじゃないですか?」。

川上「何回も下見に行ってるので、そういうシミュレーションをやった上でのことでやるようにしています」。


井上「モノノフさんからすると『ももクリ』と『春の一大事』は絶対に外せないイベントじゃないですか? でも、今回、どうしても選別される気がするんですよ」。

川上「今回、1日、6000人で3日間ですが、輸送料とか考えてギリギリのラインですよ」。

井上「ツイッターで、『今回、軽井沢に行けなくても、自分はモノノフなんだ』という声を聞きます。僕が『モノノフが選別される?』と心配して呟いたからなんですが、モノノフさんたちにとっては、参加できなくても糸が切れる関係じゃないと思っているんです」。

川上「多くの方に見てはもらいたいですけど、それぞれファンの方の状況があるのは分かってますし。ただ、こちらが考えるものを見せると値段も上がっちゃうなと思ってて、そこが難しいですよね」。

井上「これまでも素晴らしいステージをみせても興業的にはギリギリとかで。今回のあの値段も不安になります…」。

川上「そういうのを許してくれるのがありがたいですよね。これぐらいの値段でこれぐらいのものを見せるとか、やってみなきゃ分からなかったんですけど…」。

井上「ひとつ言えば、そのハードル上げたのあなただから!」。

川上「そうかなあ…。でも、インチキくさいイベントもやってますよ~(笑)」。

井上「そこが凄いわ。インチキなのも確かにあるし(笑)。例えばその日に行ってその日に帰る60分1本勝負の『ももクノ』とか」。

川上「あれは、お金をどこまでかけずに地方に行けるのかというので始まってるんです(笑)」。

井上「そういうテストケースをぶち込むところが確かに適当。でも、本当に見せたいものを高い値段でやってても見合わせるところがすごい。だから、今回の『ももクリ』は後者の方になるかと」。

川上「もちろん完成されたエンターテイメントにしたいと思ってますよ」。

井上「まさにエンターテイメントを追求しちゃってるところがすごいよね」。

川上「この前、『桃神祭』で16個のカメラで実験で撮ってみたんですよ、VRって言うんですけど。実験で。同時体験できなくても、色々楽しめるようには作ってはいるんだけど、本当は生のライブがいちばんというのがあるんですよ」。


井上「〝生のライブがいちばん〟という条件。だから、僕は4年ぐらい前からももクロを追いかけられなくなっちゃったんですよ。意外と在宅系なんで、追いかけたくても、なかなか追いついていけない。もしかしたら、今回、ファンを選別したのかと思っていたけど、本当はもっと前に選別は終った状態なのかもしれないと」。

川上「なるほどね…」。

井上「例えて言えば、AKB48は宝塚歌劇団になっていて、ももクロはSMAPになったと思っていて。宝塚って、とんでもない数の固定ファンはもちろんいて、その基盤も揺るぎない。チームごとに入れ替わっていても常にそこの1番ができる。SMAPは年齢を重ねても、1人1人の個性とSMAPとしての活動が相まっている。本当はコレを川上さんが言ったことにしたいですけど(笑)」。

川上「実はジャニーズに対するリスペクトはもの凄くあるんですよ」。

井上「ももクロはSMAP、エビ中はTOKIO、しゃちほこはV6みたいな? だと、今、川上さんが手がけている3B juniorはジャニーズJr。そういうことを知らず知らずのうちにスターダストは身につけているような気がします」。

川上「いや、面白い(笑)。久々に井上さん楽しそうだね(笑)」。

井上「楽しいよ、この半年間、会社(B.L.T.)辞めて浦島太郎状態だったんで(笑)。「幕が上がる」のDVDも、もう10回以上観たからね!」。

川上「これ、最高のアイドル映画でしょ?」。

井上「いやいや、これはアイドル映画じゃありません! アイドル映画というレッテルが貼られちゃってるのがもったいない」。

川上「それは僕と井上さんの考えが違うんだよ。僕や本広さんにとっては、アイドル映画は高尚なもので。原田知世さんとか薬師丸ひろ子さんの映画とかをものすごく高いものと思っていて、僕たちもアイドル映画を作ったんですよ」。

井上「なるほどね。いわゆる〝尾道三部作〟とか、そっちの方の意味合いね。今の世代のアイドル映画っていう言葉の意味と意義が違うわけね。そういう意味では確かに『幕が上がる』は崇高なアイドル映画ですね」。

川上「これで、映画祭とかの壇上に女優さんたちと並んで立てるのは痛快だなと。こちらはそれなりの現役アイドルやってて、報知映画祭で特別賞を頂けて、アイドルとして穫れたことに意義があるなと思ってます」。

井上「この『幕が上がる』を2000年代のアイドル映画だと思っている人たちを覆す僕なりの発信をしたいと思ってます。僕はこの映画は百田夏菜子の女優としての覚醒だと。だから、今年いちばんの後悔は『幕が上がる』の舞台を観に行けなかったこと…。この2015年、川上アキラはももクロに何を課した年だと思ってます?」。


川上「何を課したと言われれば、2016年に活動するためのものを課したとしか言いようがないんですけど。僕の中ではテーマがあって、地方であり、アイドル活動で映画というものもあり、更に音楽ライブが再評価されるのかと思ってやっていたので、今年の後半は個々の表現力が上がったと思ってます。毎月一回、本格的なアーティストの方と生で歌う『フォーク村』もありましたが、番組に臨むにあたって、メンバー本人たちのプロ意識がものすごく上がりましたね」。

井上「2016年に繋がる活動を今年させたと」。

川上「そういうことですね。今後、先々で、どういうことになるのか分かんないですけど、こうして続いていく予定の中でやってますね」。

井上「ちなみに、そんな2016年2月のドームツアー。そこで何をみせたい?」。

川上「同じ意識でお客さんが来るんで、最大限が集まった熱気と広い空間の中で、うちが考えるエンターテイメントを出したい。以前、『5TH DIMENSION』というアルバムや『GOUNN』というシングルを出した時に、その世界観をどこまで表現できるかをチャレンジしてました。だから、今出来るマックスを考えるとドームが適していたし、ももクロが作り出す生のエンターテイメントを色んな所に持って行ってあげたい」。

井上「それを地方で拡散したいと」。

川上「まだ、正直なところ、日本のマーケットしか考えられないんですけど、今年、一回だけロサンゼルスに行ったんですよ。『アニメ・エキスポ』で。ミート&グリートという前夜祭があって、そこで、昔からやってるお客さんとのコール&レスポンスやコール合戦をそのまま持って行ったら、『ここまでやってるミート&グリートはなかった』と言ってもらって。これはアメリカの人たちはまだ体験してないだけで、勝負できるものになりうるんだなと感じたんで、来年はもうちょっと海外も行ってみようかなと思ってます。今のももクロのパッケージで」。

井上「HUSTLE PRESSでも海外連れてってあげたいんですけどね~(笑)。(メッセージVTR参照)1人ずつとかね~、でもお金がね~(泣)」。

川上「ぜひグラビアとかやってやってくださいよ!」。

  

(取材を終えて)

川上アキラ氏とはすでに十五年を超える付き合い。そんな彼が、インタビューの初めには多少こわばった表情をしていた。「井上、何を聞いてくるんだ?」と探りを入れていた様子。こういうときには、最初に本題をぶつけるのが得策。今回のインタビューのテーマであった「ももクリ」がなぜ北へ向かうのか?という質問をぶつけてみる。やはり、直球には直球で返してくるのが、この男。そこからは堰を切ったかのように、いつも打ち合わせをする「雑談」的な感じで話が進んだ。最後、ちゃっかり、「それ、おもしろい! やりましょう!」と言ってくれた企画を2つほど通してくれる寛大さ(面白いことには反応してくれる、彼の性格がそうさせる)。皆さんにだけそっと教えると、通してくれた企画は、くだらない2017年のカレンダー企画と、百田夏菜子特写企画。後者は各所調整があるので、まだ確定はしていませんが、そういう面白いこと、くだらないことに即レスをくれる川上アキラという男が僕は大好きなんだと再度、思った。彼の〝エンターテイメント〟追及という姿勢が「ももクリ」にも表れただけなんだと思う。すんごいものを頼んだ、アキラ先輩!!(インタビューは11月21日に収録)

    


  

川上アキラ(かわかみ・あきら)
生年月日:1974年9月10日
出身地:埼玉県
血液型:-

【CHECK IT】
スターダストプロモーション所属のマネージャー、プロデューサー。1998年入社。芸能3部にて、沢尻エリカ、早見あかり、ももいろクローバーZなどを担当。2013年に役員に就任。配信サイト「LoGiRL」にて、毎週火曜日に「川上アキラの人のふんどしでひとり相撲」を担当。DVD&Blu-rayで「桃神祭2015 エコパスタジアム大会」が発売中。12月23日(水)~25日(金)の3日間に「ももいろクリスマス2015~Beautiful Survivors~」を軽井沢スノーパークにて開催。12月31日(木)「第一回 ももいろカウントダウン ~ゆく桃くる桃~」を豊洲PITで開催。

詳しい情報は公式HP