SUPERB ACTRESS 松井玲奈
PHOTO=城方雅孝 INTERVIEW=斉藤貴志
相次ぐ出演作で立て続けに高い演技力を発揮
映画「めがみさま」で人生に絶望した主人公に
――最近どの出演作でも、玲奈さんの女優力の高さをすごく感じます。
「自分ではどの作品も毎回『難しいな』と思いながらやっています」。
――「めがみさま」の理華は職場でいじめられて自殺を図ったり、楽しい役ではなかったでしょうけど、演じてみてどうでした?
「すごく考えさせられる役で、“迷う”のとはまた違って悩みながらやってました。心情がすごく複雑な役なので、『ここはどういう気持ちなんだろう?』とか、考えないといけないことが多くて……」。
――どんよりした表情とか、玲奈さんに見えないくらいでした。
「メイクとかは全然変えてないです。人と混ざり合ってない感じを出すことを考えて、やってました。噛み合っているようで、噛み合ってない、人との会話がちゃんとできてない感じが、どうすれば出せるのか、どういう距離感で人と話しているのか……などを考えながら……」。
――同僚に陰湿ないじめをされたり、母親から攻め立てられたり、演技とはいえ気持ちが滅入りませんでした?
「ずっと落ち込んだ気持ちではいましたね。この撮影期間中は、他のことをしてなかったので……」。
――精神安定剤をむさぼるように飲むときは、心情的には爆発しそうになっていて?
「そのきっかけになったものを考えました。どんな言葉が引っ掛かって、どういう感情から薬に手が伸びるのか。感情の起伏の仕方によって、手の出し方も飲み込み方も変わると思うので……」。
――お母さんに厳しく責められて泣き叫ぶシーンもありました。
「お母さんとのシーンは『こうしよう』と考えるより、その状況のなかで思ったまま動こうとしたことが多かったですね」。
――日常では実際、泣き叫ぶようなことはそうそうないでしょうけど。
「でも置かれた状況は人それぞれで、すごく追い込まれたような気持ちになったら、ああいうこともあるでしょうし……」。
――じゃあ、理華ほどではなくても、彼女の心情を薄めたような気持ちは、玲奈さん自身も覚えがあったり?
「それは誰にでもあると思います。親に反発したり、人とうまく接することができなかったり……。学校や会社でみんなとどうコミュニケーションを取ったらいいかわからないとか、自分が思っていることが違う形で伝わっておかしくなっちゃうとか、少なからずあることじゃないかと。たまたま理華にはそういうものが全部集約されて、自分の感情をうまく表に出せない人格ができてしまったと、私は解釈しました」。
――お母さんとはかなり激しいケンカのシーンもありました。あそこは相当気を張ってやった感じですか?
「集中はずっとしてましたけど、お母さん役の筒井(真理子)さんが『やりたいようにやっていいから』と言ってくださって。親子の関係を醸し出すにはあまりに短い期間での撮影でしたけど、最初からお母さんとして、その場にいてくださったから、しっかりぶつかることができました。相手から演技を引き出す力がある役者さんは、本当にすごいと思いました」。
――劇中では折り合いの悪い親子でしたけど……。
「いや、仲が良くないわけではなくて、あの関係性は母親の愛が強すぎて、娘がそれを受け止め切れないんだと思います。もっと自由に生きたいのに、親が囲ってしまうから自分らしい仕事も選べない、好きな場所にも行けない。ごはんを食べるシーンでも、お母さんが何でもやってあげて、かまいすぎてる感じが伝わる。そういう親子のチグハグ感を出すために『もっとこうしたほうがいい』とか、筒井さんから提案をしてくださったので、すごく助けられました」。
我慢することは大事だと思いますけど
モヤモヤは残さないようにしています
――観ているだけで息が詰まりそうなシーンも多々ありましたが、演じるときにはスイッチが入る感覚ですか?
「うーん……。どうなんですかね? 状況に合わせて、ちゃんと演じないといけないとは思っています。パワーが足りないよりはやりすぎるほうがいいから、自分が出せるものはその場ですべて出すようにして演じています」。
――撮り終わったあとは、だいぶエネルギーを消耗していたり?
「ケンカのシーンはもう体力的に疲れます(笑)。大声を上げますし、お芝居とはいえ感情がすごく揺さぶられるので……。あと、ハイになりながらも演技として気をつけないといけないこともあって、精神的にも疲れます」。
――あとで試写を観て、自分で「ここまでやってたのか」と思ったりはします?
「自分が出ている作品はあまり客観的には観られないです。『このシーンはこういうふうに切り取られていたんだ』と思うことが多いので、自分が『こんなにやってたんだ』というより、1本の作品として繋がったものを観て『違うアプローチもできたな』と思ったりします」。
――なるほど。演技者として、いわゆる憑依型というか、役に入り込んでカットがかかって我に返る……みたいなタイプではないですか?
「いろいろ考えながらやっているので、そういう感じではないです。自分ではどういうタイプの役者か、まだよくわかりません」。
――本当に最近の玲奈さんは役ごとにリアルでインパクトがあるので、「どんなことをして演じているんだろう?」と思ったりもするのですが……。
「自分ではまだ全然できてないと思ってます。監督さんとかカメラマンさんとか、周りの方に助けてもらっていて……。特に今回はいろいろな解釈ができる作品で、観る人それぞれ、刺さる言葉や見えるものが違うと思ったので、いろいろな方に『どう思いますか?』と聞いたり、アドバイスをもらったりしました」。
――そうしたアドバイスのなかで、理華を演じる基本になったようなものもありました?
「何かひとつというより、自分のなかで整理がつかないことは『どうしてこういうことを言うんですか?』『なぜこんなふうに動くんですか?』と、ちゃんと監督さんに疑問をぶつけて、お互い理解し合ったうえで進めることが大事だと思いました。カメラマンさんも『この作品は繋いでみないとわからないところがある』とおっしゃっていたので、自分も周りも理解しながら撮っていかないといけなくて……」。
――映画デビュー作「gift」のときは、ご自身について「不幸が似合う」と話されてましたよね。
「今回の役はそういう陰のある役でしたけど、『笑う招き猫』では芸人さんの役も演じましたし、自分で切り替えられるスイッチは増えてきたのかなと思ってます」。
――「めがみさま」の劇中でセラピストのラブが唱えていた「我慢しない」という信条については、どう思いますか?
「私は我慢することは大事だと思いますけどね(笑)。でも、ラブが言ってることも『確かに』と思いましたし、だからこそ理華はラブについていって、たくさんの人がラブを慕ったんでしょうね。それは台本を読んでいても、撮影現場でもわかりました。ラブがセミナーで演説しながら、みんなの心を救っていくのを『なるほどな』と。やっぱり感じ方次第かな。その言葉を受けて、自分なりにどう解釈して落とし込むか。時と場合にもよるので、自分でちゃんと考えるのが一番だと思います」。
――何かで頭にきたときは、我慢して抑えます?
「やっぱり時と場合によります(笑)。私はすごく怒るほうではないですけど、腹が立つときはもちろんあるので……。それを溜めておいても、精神的にあまり良くないと思います。疑問に思ったこともわりと聞くようにしてますし、モヤモヤは残したくないタイプですね」。
――そんな玲奈さんにとって、“めがみさま”だと思う存在はいますか?
「いないです。私は神様よりも人が好きなので(笑)。女神さまというと他人にすごくやさしくて、みんなのことを導いてあげるような女性ですよね? “自分より他の人”という精神はすごく素敵だと思いますけど、私のそばにいてくれるなら、もうちょっと人間味のある人のほうがいいかな。『やっぱり他人より自分が大事だよね』とバッサリ言えちゃうほうが好きです」。
松井玲奈(まつい・れな)
生年月日:1991年7月27日(25歳)
出身地:愛知県
血液型:O型
【CHECK IT】
2008年にSKE48のオープニングメンバーとしてデビュー。2015年8月に卒業して女優中心の活動に。主な出演作はドラマ「フラジャイル」(フジテレビ系)、「神奈川県厚木市 ランドリー茅ヶ崎」(TBS・MBS ほか)、映画「gift」、「笑う招き猫」、舞台「新・幕末純情伝」など。ドラマ「100万円の女たち」(テレビ東京/木曜25:00~)に出演中。「東京暇人」(日本テレビ/金曜25:55~)でMC。主演映画「めがみさま」は6月10日(土)より全国順次公開。
詳しい情報は公式HPへ