舞台裏のプロフェッショナル 振付師 高田あゆみ
PHOTO=古賀良郎 INTERVIEW=斉藤貴志
わーすたの「いぬねこ。」の振付はすぐできて
サビ前で絶対にかわいいと思ってもらおうと
――今や振付師として引っ張りダコだそうですね。
「いやいや。まだまだですけど、いろいろやらせていただいていて。本当に、わーすたのおかげなんです。『いぬねこ。(青春真っ盛り)』の振付を誰がやったか調べてくれたグループがたくさんいて、『じゃあ、あの人に』とお声掛けいただくことが多くて」。
――もともと自身がキャナァーリ倶楽部でアイドル活動をされていて、その頃から振付も手掛け始めて。
「前からダンススクールに通っていて、ダンスはすごく好きで、キャナでも一番気合いを入れて踊っていたんです。それを(プロデューサーの)つんく♂さんが見て、『あゆべえは振付もやったらええやん』となり、最初にハロー!プロジェクトの新ミニモニ。さんの『ペンペン兄弟』の振付をさせてもらいました」。
――じゃあ、振付師は自ら目指した道だと。
「もちろん、そうです」。
――振りのなかでも、アイドルダンスを手掛けていこうと思ったんですか?
「もともとはガツガツ踊るのが好きだったんですけど、アイドルの振りを付け始めて、つんく♂さんに普通のダンスと違うキャッチーなものを作ることを教えてもらってから、そっちのほうが楽しくなりました。お客さんと一緒に踊る感じだったり」。
――自分のアイドル経験も活かしつつ?
「それは結構あります。私もキャナに入る前はダンサーだったから、かわいく踊る方法を知らなくて。ステージで重心低く踊っていたら、誰も見てくれない(笑)。『何でだろう?』と思って、すごく研究したんです。どの角度だとかわいく見えるか? どうしたら自分も楽しく踊れるか? そこからだんだん、かわいい振りに魅力を感じるようになりました」。
――わーすたきっかけで仕事が広がったとのことですが、逆にiDOL Streetとはどういう経緯で関わるように?
「175RのISAKICKさんと友だちで、彼はアイドルの曲も提供していて、(ストリート生時代の坂元葉月と小玉梨々華がメンバーだった)hanarichuの立ち上げにも携わっていて。『振付は誰にするか?』という話になったとき、私の名前を出してもらったみたいです。アイストの(統括プロデューサーの)樋口(竜雄)さんがハロプロを好きだったこともあって。その流れでわーすたも……となりました」。
――メンバーはストリート生の頃から知っていて?
「知ってました。はーちん(坂元)はhanarichuのセンターなのに全然しゃべれない子でしたけど、今はめっちゃしゃべりますよね。すごく変わったなと思います」。
――各メンバーのダンスでの個性や良さを挙げてもらえますか?
「はーちんはhanarichuから知ってるだけあって、私の『こうして欲しい』という動きをすぐ取り入れてくれます。全体的に大きく踊ってくれるので見栄えがいいし、キレも良く見える。すごく信頼しています」。
――小柄な分、大きく動いてるのかなと思ってました。
「それもあると思います。激しく踊るけど、表情はかわいかったり。りりぃ(小玉)は私の言ったことをあまり聞きません(笑)。『ハイ。やりまーす』とか言うけど、サラッと自分のかわいい角度を見つけて踊る感じで、りりぃワールドが確立されているのが魅力ですね」。
――振付師としても、その辺はお任せで?
「それでいいよ、みたいな。逆に『りりぃ、こういうのをちょっとやって』とアバウトに言うと、ノリノリで『こうですか?』とやってくれて。それが面白いから『じゃあ、本当にやっちゃおう』と取り入れたりします」。
――松田美里さんは広島のアクターズスクール出身ですね。
「ダンスは上手だし、自分を知ってるんですよね。かわいいところを。私の振りを忠実に踊ってくれます。細かく言わなくても勝手にやってくれる感じ。飲み込みが早くて」。
――いわゆるカンがいいような?
「そうそう。美里は一番カンがいいかもしれません。で、なっちゅん(廣川奈々聖)はすごく真面目なんです。練習中にふざけた感じの振りを『やって』と言うと、最初は『えーっ!? できません!!』とか言うんですけど」。
――たとえば、どの辺の曲ですか?
「『完全なるアイドル』のサビでヴィジュアル系みたいな動きがあって、『えっ? やり方がわかりません』とか言いながら、実際にステージに立つと一番できているんです。表情とかも含めて、やり切っていて」。
――自主練を相当やってるんですかね?
「だと思います。真面目だから、たぶん『忠実にやらなきゃ』という意識が働いて、角度まで教えたままやってくれます。しっかりさんだな、と感じます」。
――三品瑠香さんはヒップホップをやっていたそうで。
「体の使い方が一番できています。ダンサーっぽいダンスで基礎ができているから、瑠香には一番何も言わないかも。何となく『これっぽく』と言えば、『わかりました』ってサラッとやってくれるので。『完全なるアイドル』のMV撮影のときは、ヴィジュアル系っぽく髪をバサバサさせるシーンで、だんだん楽しくなってきたのか頭を振り乱しすぎちゃって。映像で追えず、顔が全然映らない。結局『軽くやってください』となったんですけど、やると決めたらガッツリ踊っちゃう感じですね」。
――本人が「最初は『もっとかわいく踊って』と言われた」と話してましたが。
「そうなんです。私もキャナのときに同じだったんですけど、普通にダンスをしていると、かわいい顔ってあまりしなくて、カッコつけた顔になっちゃう。私も『かわいい顔をして』と言われてました。でも、どうしたらいいかわからない。自分で研究するしかなくて。瑠香の気持ちはわかるから、『この角度はこう』みたいに細かく教えました」。
――そこは事細かに。
「それでも瑠香は最初できなくて。でも、笑う練習も一生懸命したみたいで、自然とできるようになってました。ただ、無理に笑ってもらうより、『いぬねこ。』みたいにかわいく見せざるを得ない振付にしちゃえば、みんなかわいく踊れるのかなと。踊っていて楽しければ、自然に笑うじゃないですか」。
――「いぬねこ。」はライブで一番人気の曲になりましたが、振りを付けるのに時間はかかりました?
「いや。一番早くできました。サビがすぐできたんです。犬だったらこうかな、猫だったらこうかなって。で、みんなで踊れるように。じゃあ、もうコレで……という感じでした」。
――“にゃんにゃらにゃんにゃら”のところも?
「あそこも『音がこうだから、これで行けるかな?』というノリでした。サビ前の音が一回静かになるところで、かわいく見せたいんです。お客さんが『わっ、かわいい!』と思ってくれるように、小首をかしげるところから強弱をポイントにしました。つんく♂さんもビートをすごく気にしていたし、サビ前のつかむところは絶対つかまなきゃいけないと学んで、というか無意識に感じていたので、そういうふうに振りを作っているんだと思います」。
――振りを作るときは、自分で鏡を見ながら踊ってみるわけですか?
「振りが浮かぶと、部屋の隅っこで髪がボサボサのまま映像を撮って記録しておきます。『私だとかわいくないな』と思いつつ(笑)、『動きはかわいく見えるからメンバーに移してみよう』と。『いぬねこ。』は最初に振り入れしたとき、メンバーが『この振り、チョー楽しい!』と言ってくれたんです。何回も踊ってくれて、その時点で『行けるかもしれない』と思ったら、ファンの皆さんも一緒に楽しんで踊ってくれたので、うれしかったです」。
アイドル自身が楽しんで踊れることが大事
それがファンの人に伝わって盛り上がれば
――振りはもちろん個々の曲に合わせて付けるものですが、大枠として「わーすたの振りはこう」みたいな方向性もあります?
「最近はクリエイターの女子チームで曲のコンセプトから打ち合わせして、みんなで作る感じです。『完全なるアイドル』だと、楽屋でメンバーが私に『猫耳しんどいんですけど』と相談してきたのを陰でメモって、打ち合わせのときに『こんなこと言ってますよ』と見せて。そしたら『面白い! 歌にしちゃおう』となり、『猫耳捨てちゃえば?』みたいな話から曲ができました」。
――打ち合わせの時点では、鈴木まなかさんの曲ができていたわけでなく?
「できてなくて、逆にそこから、まなかちゃんが作りました」。
――アイドルの裏表を歌った曲になって、木村優さんの作った衣裳も黒と白。
「ブラックな感じにしようと。天使わーすたと悪魔わーすたをポップに見せています」。
――で、振りもヴィジュアル系とアイドルが織り交ざって、ヘドバンがあったり。
「切り替わる感じにしました。そういうのも会話の流れで、ふざけて『これやろうぜ』みたいなノリで出来上がったから、すごく楽しくて。わーすたのプロジェクト全体がハッピーな感じなんです」。
――振りについて言えば、わーすたはひとつの動きを繰り返すより、1曲のなかにいろいろ詰め込まれている印象もあります。
「キャナの頃、つんく♂さんから『歌詞をちゃんとイメージしながら歌ってほしい』と教えられてきたので、振りも歌詞に合わせるようにしています。サビは動きを繰り返すとしても、わーすたの曲は物語になっているので、その物語をきちんと理解してほしい気持ちが強いんです。だから、お芝居やコントを入れざるを得ないところもあります。曲が曲だけに」。
――「うるチョコ(うるとらみらくるくるふぁいなるアルティメットチョコびーむ)」なんかは特にそうですね。
「あれは正直、悩みました。『なんて曲を作ってくれたんだよ!』と思って(笑)。曲調がいろいろ変わるじゃないですか。“チョベリバ”とか私が小学生の頃に流行った言葉で『懐かしいな』と思いつつ、どんな振りにするか考えたんですけど、ダンスだけだと伝わりにくいので、お芝居を入れて、ああいう感じになりました」。
――美里さんの「おっも!」のところとかですね。
「そこも剣がないのにどう表現するか、メンバーがお芝居できるのか、不安がありました。パントマイム的なことをやるので。『やめたほうがいいですかね?』とスタッフさんに相談したら『やるしかないでしょう』と。『じゃあ』とダメ元で“エクスカリにゃん”のところとかを作ったんですけど、メンバーが思った以上に演技がうまくて『イケるね』となりました。そこからメンバーたちがコミカルな芝居に目覚めたらしく、いい意味で壊れ始めました(笑)。ダンスでもふざけてくれるようになったり。私のなかで振付はちょっとふざけて楽しむものと思っているから、みんなノリが似てきて、うれしく感じました」。
――一方で、奈々聖さんと瑠香さんのユニット曲「好きな人とか居ますか」ではクールさを出していて。
「私はお芝居もやっていたから、ダンスだけでなく、お芝居の要素も入れたいんです。歌詞を伝える意味でも、表情によって伝え方が変わってくるので。『好きな人とか居ますか』だと、『サビで遠くを見つめて好きな人を想う感じで』とかイメージを伝えました」。
――葉月さん、美里さん、梨々華さんの「にこにこハンブンコ」はお遊戯のような感じで。
「あれも演技があります。お客さんを生徒だと思って、先生ノリで『みんなやりますよ』みたいにやってねと。演技指導も結構して、『練習からスイッチを入れて先生になりきって』と言ってました」。
――鈴木まなかさんの作るわーすたの曲はカントリー、ボサノバ、EDM、童謡……などすごく幅広いわけですが、振付にも引き出しがたくさん必要だったり?
「ワールドミュージックなので、いろいろな引き出しがないと曲のイメージに合わなかったりしますね。たとえばカントリーの『ちいさな ちいさな』ならキャンプファイヤーで踊るイメージで”せっせっせ”はみんなで一緒にやりましょう、とか。『Doki Doki♡today』は70年代ぐらいのディスコで、そこら辺の振りはやったことがなかったので、ネットでディスコダンスをいろいろ観て勉強しながら作りました」。
――特に苦労して振付した曲というと?
「『Zili Zili Love』は最初に付けた振りを変えました。セクシーでかわいさも残した振りはどうすればいいか、悩んでしまって。すごく難しい振りを作ったら、キャッチーさがない。結局踊りやすい感じにしたら、良かったんですけど。わーすたの初期は、私も本格的に振付をやろうと決めた時期で、探り探りだったんです。今までのアイストの流れもあって『難しい振りにしないといけない』と思っていたときもありましたけど、『いぬねこ。』で吹っ切れました。つんく♂さんから教えてもらった通り、みんなでマネしてガーッと踊れるようにしようと」。
――ダンスに関して気になる他のグループはいますか?
「E-girlsの振付のAKIKOさんは、スパガ(SUPER☆GiRLS)さんもやられてますけど、私がダンススクールに通っていた頃に教わっていたんです。当時は倖田來未さんのバックダンサーだったのかな? あの方こそ、かわいい角度やセクシーな角度を取り入れたダンスをしていて、憧れでした。E-girlsさんのダンスもカッコ良くて難しいけど、キャッチーでもあるから、みんなマネしたくなるんですよね。♪Follow Me! Follow Me!~とか」。
――あっ、確かに。
「すごいなと思って参考にさせていただいてます。あと、二丁ハロのミキティー本物さんの振付は面白いなーと思います。アイドルにすごくふざけた振りやヘン顔をさせたり。そういうのもやりたいと思ってます」。
――アイドルダンス全般に、あゆべえさんのポリシーはありますか?
「まずアイドル自身が楽しんで踊れるのが、一番大事なんです。ただ踊っているだけだと、ファンの人って意外とわかるじゃないですか」。
――“お仕事”みたいな意識だと、何となく伝わりますよね。
「自分がアイドルやっていたから、普通の振付師さんとちょっと違う感覚で見てしまっているかもしれませんけど。まずアイドル自身の気持ちが盛り上がって、楽しんでいるのがファンの人に伝わってほしいんです。だから振りを付けるときは、まずその子が一番魅力的に見えて、踊っている本人も自分をかわいいと思えることをすごく考えます。それで楽しく踊れて、結果的にお客さんもアイドルと同じような気持ちで一緒に踊って楽しいと感じてくれたら、何よりうれしいですね」。
――「完全なるアイドル」ということで、今回の曲の内容と別に、言葉からイメージするものはありますか?
「私のなかで『完全なるアイドル』は、あやや(松浦亜弥)さんですね。見せ方とかかわいさとかすべて自分でわかっていて、歌もちゃんとレベルが高い。『アイドルだから』と妥協しない。私もアイドルをやっていたとき、『アイドルだからこの程度でしょう?』みたいに言われるのがすごくイヤだったんです。だから歌もダンスも頑張りましたけど、それをちゃんと結果として残した松浦さんは神だと思います」。
――あゆべえさん自身はキャナァーリ倶楽部時代、「完全なるアイドル」にどれぐらい近づけました?
「本当に向いてないと思ってました(笑)。あまり愛想良くできないんですよ。そこでやり切ることができず、ダンスとか技術的な部分で補ってました。だから振付のほうが好きなのかな。でも、アイドルというものは大好きなので、『完全なるアイドル振付師』になりたいです(笑)」。
――わーすたには今後、どんなことを期待します?
「もっと大きなステージで踊ることはどんどん増えてくると思いますけど、今のままの雰囲気がいい気がします。プロっぽくなりすぎないでほしいというか……」。
――大人になりすぎずに?
「そういう感じ。ヘンに大人にならず、あのかわいらしさを保って頑張ってほしいです。それで個々のメンバーが輝いていけば、5人でさらに輝くのかなと思います」。
高田あゆみ(たかだ・あゆみ)
生年月日:1984年10月20日
出身地:千葉県
血液型:B型
【CHECK IT】
振付師。2007年につんく♂プロデュースのアイドルユニット「キャナァーリ倶楽部」のメンバーとしてデビュー。活動の傍ら、新ミニモニ。、小川真奈などの振付も手掛ける。2014年にはa-nation island「IDOL NATION NEXT2014」のステージ演出、ダンスを監修。現在、わーすたのクリエイターチームで振付を担当。他に振付を手掛けたアイドルはPPPPiXiON、PiiiiiiiN、イケてるハーツ、エラバレシなど。
詳しい情報は公式HPへ