PICK UP ACTRESS 三吉彩花
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
映画「十二単衣を着た悪魔」で
強く美しいカリスマ的ヒロインに
――現代のフリーターが「源氏物語」の世界にタイムスリップした映画「十二単衣を着た悪魔」で、演じた役名は最初、読めました(笑)?
「弘徽殿女御(こきでんのにょうご)ですか? 読めませんでした(笑)」。
――普通そうですよね。
「学生時代の勉強の中でも、古典はスルーしてきたジャンルでした。教科書に出てきたことを一瞬バッと覚えるくらいで、知っている名前は清少納言のようなメジャーな人だけです。弘徽殿女御は今回の作品に出るまで気に留めていませんでした。光源氏は聞いたことがありましたけど」。
――「源氏物語」ではヒステリックな悪女として描かれていたようですが、今回の劇中では早すぎたキャリアウーマンと見立てられ、タイムススリップしてきたネガティブな青年・雷(伊藤健太郎)を翻弄しながら変えていく役どころでした。こういう強い役が自分に来たことに、納得感はありました?
「私が演じることによって、良い強さや説得力が出せたらいいなと、最初に思いました。ハマっていたのかはわかりません。でも、頑張れそうな気はしました」。
――クランクイン前に、準備としてやったことは?
「今回は監督の黒木瞳さんとマンツーマンで、台詞の稽古をさせていただきました。ひとつの台詞を50回、100回とひたすら言って、どのトーンがいいか、どの強さがいいかと」。
――どの辺の台詞で練習したんですか?
「弘徽殿の台詞はすべてです(笑)。『言いたいことを言って何が悪い』を始め、本当に全部練習しました」。
――1回目と100回目でどう変わりました?
「私が普通にしゃべり言葉で話すと、意識してなくても波があって。監督にはそこを『全部同じボリュームで真っすぐスパーンと言ってほしい』と言われました。監督がずっとやられていた演技のメソッドを習って、台詞を音で理解していく感じでした」。
――と言うと?
「『もうちょっと怒って』とか『悲しく』とかではなく、『ファにしてみて』とか『やっぱりレで』とか、音楽みたいにやりました」。
――それは難しい注文ではなかったですか?
「私は吹奏楽部でサックスをやっていたので、やりやすかったです(笑)」。
――弘徽殿の数々の台詞は、自分も思っていることでした?
「だいたいそうですね。『言いたいことを言って何が悪い』は、私も思ったことを言うタイプなので共感しました。理不尽な発言はしないとして、『間違えてないことを言って何が悪いんだろう』という気持ちはあります」。
――「かわいい女はバカでもなれる。怖い女になるには能力がいる」というのは?
「とても良い言葉だと思います。現実世界で考えても、確かにそうかなと」。
――では、台詞として言う上でも自然に出た感じ?
「最初は『よくこんなことを言えるな』と思いましたけど(笑)、本当にすごく特訓したので。現場でも『練習のときのほうが良かった』とか『もうちょっとこうしたら?』と粘ってくださったので、ありがたかったです」。
――弘徽殿女御を魅力的な女性だとは思いました?
「最初は怖くて強い女性という印象でしたけど、自分の息子への愛情を見せたり、雷に対してやさしくしたり、だんだん物腰が少し柔らかくなって、愛おしさを感じるキャラクターだなと思いました」。
――言葉の他に、演じる上で意識したことはあります?
「いろいろなところでドーンと構える感じですね。女性だからおしとやかに……ということではなく、ちょっと男性っぽくカッコイイ女性として、所作は座り方から意識しました」。
――三吉さん自身の凛々しさが自然に出た面もあったのでは?
「どうですかね? 撮影が後半に差し掛かって、やっと演じていて『馴染んできたかも』と思った感じです」。
――さっき出たように、息子で異母弟の光源氏と皇位を争う春宮には、やさしい母の目を向けていました。我が子への想いは、実際に母親になったことはない中で、どうイメージしたんですか?
「時には自分の母親のことを想像しながら演じました。子どもは何歳になっても、自分が犠牲になってもいいくらい愛おしいものなのだと、子どもの立場から親を見ていて年々感じます。両親とそういう会話もするので、演技の中に出せればいいなと思っていました」。
――時代劇はそんなに経験なかったですよね?
「幕末のドラマをやったことがありますけど、限りなく現代っぽい時代劇だったので。今回は本当に現代ではない役で、いつもとすごく切り替えました。台詞の言い回しから、現代とはまったく違うので」。
――時代劇ならではの演じ方もあって?
「やはり所作が一番大きいですね。振る舞いが不自然に見えないようにするのは大変でした。画面に映っているときは、立ち上がるときの着物の捌き方も座っているときの扇の持ち方も、屈み方やお辞儀の仕方も全部、気を配りました」。
――十二単衣の着心地はどうでした?
「重かったです。撮影用に全部縫っていただいて、1回で全部着られるようになっていたので、少し楽でした。それでも簡単には着られないので、トイレに行くタイミングも考えながら撮影していました」。
身の丈に合わせようとか
考えたことがありません
――他に、撮影中のことでもカメラが回ってないときのことでも、今も特に覚えていることはありますか?
「やっぱり監督との時間ですね。伊藤くんたち共演者よりも長く監督と過ごしたので、とても思い出に残っています。台詞に関するやり取りだけでなく、スタッフさんたちと一緒にごはんを食べながら、作品のことや他愛ないことも話して、人柄も知ることができて嬉しかったです」。
――黒木瞳さんはこの作品の監督というだけでなく、女優の先輩でもあるだけに?
「最初は私もビシッとしなきゃと思っていましたけど、意外とカジュアルな方でした。『何も気にしないで、やっちゃいなさいよ』というノリで、プロデューサーさんたちも『姉さん』という感じで、ついていきたくなるのがわかります。食事のときはお酒も結構飲まれていて(笑)、『こんなにしゃべってくださる方なんだ』と思いました」。
――三吉さんもお酒はつき合ったんですか?
「私は全然ダメです。弱くて、すぐ顔が赤くなって、眠くなっちゃうので。黒木監督と2人で読み合わせの稽古をしているときも、急にシャンパンのボトルがポンと出て、『三吉ちゃんも飲む?』『私はいいです』みたいなことがよくありました(笑)」。
――三吉さんは去年『ダンスウィズミー』がヒットして、今年はこれで主演、ヒロインの映画が3本公開。女優として自信になっていますか?
「いやー、自信にはならないですね。まだ探りながらやっていて、女優として確立はできてないと思います。楽しいですけど」。
――モチベーションは年々高まっています?
「20歳を過ぎて、演じることの意味や楽しさがより具体的になってきました。年齢と共にハードルも上がる分、できる役の幅も広がりますし、そういった意味では面白い年代に入ってきた感覚はあります」。
――自分の女優としての強みは、どう捉えていますか?
「何ですかね? 自分的に大きな自信を持てる部分はありません。この人と言ったらクールな役、みたいな確立されたものがまだないでので、そこを探っていきたいです」。
――見据えている方向はあるんですか?
「あるんですけど、まだやってないジャンルです。アクションとかカッコイイ役をもっとやりたくて」。
――身長もあるし、似合いそうですね。
「なかなか巡り合わせがないんですけど、いずれやりたいと思っています」。
――備えてはいるんですか?
「アクションの教室とかは通っていません。殺陣とか興味はあります。ただ、今は他にいろいろ、来年の作品に向けて準備していることがあって、なかなか平行してはできなくて、今すぐやるのは難しいんですよね」。
――売れっ子ゆえに、ままならないところですね。好きな女優さんはいますか?
「マーゴット・ロビー、クリスティン・スチュワート、エマ・ストーンです。やっぱり強い女性が好きですね」。
――映画やドラマは自分でもよく観るんですか?
「大好きです。ほぼ海外の作品ばかり観ています。今、日本でも大人気の韓国ドラマは本当によくできていると思います。私は昔から好きで、ベタな内容でも役者さんのお芝居が圧倒的に上手いので、ダサい感じにならなくて。リアルに感じて、配信モノだと1話から一気に観ちゃいます。最近だと『サイコだけど大丈夫』が本当に面白いなと思いました」。
――少し前に流行った「愛の不時着」も観ました?
「全話観ました。『梨泰院クラス』も観ましたし、本当によくこれだけ、パターンの違う作品があるなと。ベタな恋愛モノ、業界っぽいもの、シリアスなもの、時代もの……。すごく豊富で脚本も面白くて、良いですね」。
――「十二単衣を着た悪魔」では「身の丈に合ったことだけして、傷つかぬように生きるなど、小者のすることです」という台詞もありました。三吉さんも身の丈を越える挑戦をしたことはありますか?
「基本、身の丈は考えません。その台詞は、私も『そうだな』と思いました。自分の意志ではなく、ただ身を守るために殻に閉じこもることについて言ったものだと、私は解釈しました。それだと自分の軸が弱いように感じます。私は身の丈を考えないのが基本。そんなことを気にしている人がいるのかな、と思います」。
――強いですね(笑)。季節的にはだんだん寒くなってきますが、冬の楽しみは何ですか?
「こたつを出すのが楽しみです。毎年、実家ではこたつで年末・年始を迎えるので、早く出したくて。こたつに入って食べるアイスが本当においしいんです(笑)」。
三吉彩花(みよし・あやか)
生年月日:1996年6月18日(24歳)
出身地:埼玉県
血液型:B型
【CHECK IT】
20010年に「ミスセブンティーン2010」に選ばれて「Seventeen」(集英社)の専属モデルを2017年まで務める。2013年に映画「旅立ちの島唄~十五の春~」で初主演。同年に「第35回 ヨコハマ映画祭」で最優秀新人賞を受賞。主な出演作は、映画「ダンスウィズミー」、「犬鳴村」、「Daughters」、ドラマ「エンジェルハート」(日本テレビ系)、「警視庁・捜査一課長」(テレビ朝日系)など。映画「十二単衣を着た悪魔」は11月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国で公開。12月10日(木)より配信のドラマ「今際の国のアリス」(Netflix)に出演。
詳しい情報は公式HPへ
「十二単衣を着た悪魔」
監督/黒木瞳 原作/内館牧子 制作・配給/キノフィルムズ
詳しい情報は「十二単衣を着た悪魔」公式サイトへ
(c)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー